ききこんでいるひと篇(2) 完■ヴァイオリン・ソナタ ニ長調 K.7モーツァルト7歳のときの作品。モーツァルトの音楽を語るとき、年齢のことをいちいち取り上げていたらキリがないことになるが、それでも年齢を知りつつこういった作品を聴くと、もちろん幼い作品ではあるが、唸らざるをえない。
【推薦盤】ゲイリー・クーパー(フォルテ・ピアノ)
レイチェル・ポッジャー(バロック・ヴァイオリン)
(2004年録音)[CHANNEL CLASSICS:CCSSA22805]
正式には「ヴァイオリン助奏付きクラヴィア・ソナタ」であり、鍵盤楽器に主導権があるのだが、ここでのポッジャーは饒舌なヴァイオリンでそれに拮抗している。
【裏推薦】ピーター=ヤン・ベルダー(チェンバロ)
レミー・ボーデ(バロック・ヴァイオリン)
(2001年録音)[BRILLIANT CLASSICS:99721]
鍵盤楽器にチェンバロを選択した演奏。素直な趣味のよい演奏で、こちらをまず推薦すべきだったか。ボーデはブリュッヘン率いる18世紀オーケストラの首席。
最近、ヴァイオリン・ソナタ分野には、古楽器による個性豊かな演奏が陸続と出現していて喜ばしい。全集に向かっている上記ポッジャー盤の他、特にファブリツィオ・シプリアーニ(ヴァイオリン)、セルジオ・シオメイ(フォルテ・ピアノ)の演奏(2003年録音)[NORTHWEST CLASSICS:303136]やファビオ・ビオンディ(ヴァイオリン)、オルガ・トヴェルスカヤ(フォルテ・ピアノ)の演奏(1997年録音)[OPUS111:OPS30-216]はかなり大胆な解釈を聴かせる。
ちなみに後者、ビオンディが手勢古楽アンサンブルのエウロパ・ガランテと組んでおこなったヴァイオリン協奏曲第1〜3番K.207、211、216の新録音(2005年録音)[VIRGIN CLASSICS:3-44706-2]は刺戟的だ。何と通奏低音にフォルテ・ピアノとともにギターを入れている!
■4声カノン《おやすみ、お前はほんとのおバカ(去勢牛)さん》 K.561モーツァルトには一連のカノン・重唱作品があるが、それらほとんどが内輪の友人との楽しみに書かれたもので、歌詞としてはきわどいものが多い。しかし、モーツァルトが遺した多数の手紙とともに、その本質に迫るに欠かせない資料であるといえよう。卑猥な歌詞を上品なものに差し替えたブライトコップフ版なぞは愚の骨頂。
【推薦盤】エーリヒ・ケラー指揮
ミュンヘン・コンヴィヴィウム・ムジクム合奏団 (1960年代録音)[EMI:2DJ-3827]
K.561は、ドイツ語、イタリア語、フランス語、ラテン語、英語のチャンポン。この分野は、他に「プラーター公園に行こう」K.558、「おお、お前おバカなマルティン」K.560、三重唱「いとしのマンデル、リボンはどこ」K.441、四重唱「いとしい私の食いしんぼさん」K.571aなど名曲(?)が多く、このアルバムに収められている。独唱は、何とエリカ・ケート(ソプラノ)、ペーター・シュライヤー(テノール)、ヘルマン・プライ(バリトン)、ワルター・ベリー(バス)という豪華メンバー。
【裏推薦】ザ・ソング・カンパニー
ジェフリー・ランカスター(フォルテ・ピアノ) (1991年録音)[TALL POPPIES:TP009]
歌詞が英訳されている。幸か不幸か、よりわかりやすい結果となった。ゆえに「Lech mich im Arsch」K.231は、「Kiss my Backside」となる。ブライトコップフ版では「愉快に暮らしましょう」との穏便な歌詞に差し替え。ランカスターのフォルテ・ピアノが興趣を添えている。
■コンサート・アリア《もし私の唇を信じないなら》 K.295《イドメネオ》でタイトルロールを歌うことになる老テノール、アントン・ラーフのために書かれた。彼の声を考慮して音域も狭く設定され、名人芸を披露する箇所とてないが、淡々憂愁に包まれる不思議な曲である。
【推薦盤】ハンス=ペーター・ブロホヴィッツ(テノール)
ヨルグ=ペーター・ウェイグル指揮
ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団 (1990年録音)[PHILIPS:422-523-2]
ラーフの要請により短縮された第2版による演奏。ブロホヴィッツのリリックな美声に魅了される。
【裏推薦】クリストフ・プレガルディエン(テノール)
ミチ・ガイグ指揮
オルフェオ・バロックオーケストラ (2001年録音)[CPO:999810-2]
初版による演奏。プレガルディエンののびやかな歌声が響く。ちなみにこのアルバムには、テノールのためのコンサート・アリアの合間にシンフォニー第1番K.16が挿入されており、ガイグの尖鋭な指揮ぶりが楽しめる。
■ミサ・ブレヴィス ヘ長調 K.192クレド楽章の念入りな書法から、K.257に対し《小クレド・ミサ》とも呼ばれる。モーツァルトのザルツブルグ時代ミサ曲の扱いには不当なものがあるが、この曲は、《ミサ・ロンガ》K.262や《クレド・ミサ》K.257らとともにもっと演奏されてよい。
【推薦盤】ペーター・ノイマン指揮
コレギウム・クラシクム・ケルン
ケルン室内合唱団 (1985年録音)[CARUS:83-103]
20年前、この《ザルツブルグ時代の教会音楽1774》と題されたアルバムに出会ったときの衝撃はすさまじかった。選曲・演奏・録音ともに申し分なく、呆然と聴き惚れた記憶も生々しい。カップリングの《サンクタ・マリア》K.273、《ディクシットとマニフィカト》K.193もたいへんに素晴らしい。
【裏推薦】ペーター・ノイマン指揮
コレギウム・カルトゥジアヌム
ケルン室内合唱団 (1990年録音)[EMI:CDC7542492]
同じ指揮者による演奏。オーケストラもほぼ同一メンバー。EMIによる録音が少々大味であるのがまことに残念だが、演奏はより洗練。《レクイエム》も含め、ミサ曲全曲を録音している。
■歌劇《ポントの王ミトリダーテ》 K.87オペラ・セリアといえば何といっても《クレタの王イドメネオ》。また最近は《皇帝ティトゥスの慈悲》も復権してきた。今後はこの初期オペラ《ミトリダーテ》(14歳)や、祝典劇《シピオーネの夢》K.126、《アルバのアスカーニョ》K.111(ともに15歳)が見直されてこよう。新演出を受け入れる余地はあると思う。
【推薦盤】イェド・ヴェンツ指揮
ムジカ・アド・レーヌム (2001年録音)[BRILLIANT CLASSICS:99723]
スター歌手を揃えて話題になったクリストフ・ルセ指揮、レ・タラン・リリク盤(DECCA)もあるが、作品に虚心に向きあったヴェンツ盤が好ましい。大仰に歌わない歌手陣も秀逸。
【裏推薦】《アルバのアスカーニョ》K.111
ジャック・グランベール指揮
コンチェルト・アルモニコ (1990年録音)[ADDA:90043]
ここでは《アスカーニョ》を薦めよう。カウンター・テナーのマイケル・チャンスがタイトルロールを好演している。
《ミトリダーテ》の映像としては、天才ジャン・ピエール・ポネルが演出したニコラウス・アーノンクール指揮、ウイーン・コンツェントゥス・ムジクス(1986年:イタリア、ヴィチェンツア・テアトロ・オリンピコ、ユニテル製作)がやはりすごい。ポネルは、《イドメネオ》の演出もおこなっており、ジェームズ・レヴァイン指揮のメトロポリタン歌劇場公演が映像になっている(1982年)。タイトルロールを歌うパヴァロッティが興趣を削ぐが、演出は素晴らしい。音だけであれば、チャールズ・マッケラス指揮、スコットランド室内管弦楽団の演奏(2001年録音)[EMI:5-57260-2]が特筆される。
テーマ:クラシック - ジャンル:音楽
- 2008/03/27(木) 15:06:10|
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