これからきくひと篇(2)■ピアノ四重奏曲 ト短調 K.478「他の多くの作品なら二流の演奏でも楽しめよう。しかし、このモーツァルトの創造物だけは、二流のディレッタントの手にかかり粗雑に演奏されると、まったく聴けたものではない」(雑誌『豪奢と流行』、1788年ベルリン)。
【推薦盤】パウル・レウィス(ピアノ)
レオポルド弦楽三重奏団 (2002年録音)[HYPERION:CDA67373]
際だった特徴はないが、センスのある演奏。時折みせるピアノの即興がおもしろい。
【裏推薦】アンドレアス・シュタイアー(フォルテ・ピアノ)
レザデュー (1990年録音)[DHM:BVCD49]
鬼才シュタイアーが聴かせる。特にこの曲の肝要、第1楽章展開部、短調重層構造のバランスは、レザデューともども絶妙である。この部分の凄さに気づいているか否かが名演・駄演の境目。
映像では、クリスティアン・ツァハリスが高級磁器のごときピアノで魅了するルートヴィヒスブルク城ライヴがよい(1988年:ユーロ・アーツ社製作)。
■ピアノと木管のための五重奏曲 変ホ長調 K.452管楽器の使い方に関してもモーツァルトの右に出るものはいない。この曲は、弦楽器がない分、その妙が生に感じられる。後にベートーヴェンが同編成の曲を作曲することになるが差は歴然。
【推薦盤】アルフレッド・ブレンデル(ピアノ)他 (1986年録音)[PHILIPS:420-182-2]
世評高いブレンデルのピアノをよいと思ったことはないが、唯一の例外はこの演奏。これは、ホリガーのオーボエ、ブルンナーのクラリネット、バウマンのホルン、トゥーネマンのファゴットという望めないくらいの名手競演とフィリップスの録音とによるところが大きいのかもしれない。
【裏推薦】コンソルティウム・クラシクム (1998年録音)[MD+G:MDG301-0498-2]
ピアノ・パートを弦楽4部にした当時の編曲版。この手のもとしてはかなりよくできている。精力的に編曲版の発掘を続けるリーダーのディーター・クレッカー(クラリネット奏者)には脱帽。
■証聖者の荘厳晩禱(ヴェスペレ) ハ長調 K.339初心者用10曲のなかに宗教曲を2曲入れるというのは変格であろうが、亭主をモーツァルティアンにした張本人でもあるので、どうしてもはずせなかった。このK.339ほど演奏されないが、もう一つのヴェスペレK.321も名曲。
【推薦盤】トン・コープマン指揮
アムステルダム・バロック・オーケストラ
同合唱団 (1994年録音)[ERATO:0630-10705-2]
コープマン特有の即興性と躍動感に溢れた名演。ソプラノのバーバラ・シュリックが花を添えている。ちなみに思い出の演奏は、コリン・デイヴィス指揮、ロンドン交響楽団のもの(PHILIPS)。
モダン楽器ならば、パトリック・ペイレ指揮、コレギウム・インストルメンタレ・ブルゲンセ、カペラ・ブルゲンシス(1996年録音)[NAXOS:8-554158]をお薦めする。この学究肌の指揮者は、なかなかに通好みのアルバムを作っていて、《モーツァルト:モテットとオッフェルトリウム集》(1993年録音)[FORLANE:UCD16714]、《モーツァルト:フリーメイスン音楽集》(1992年録音)[RENÉ GAILLY:CD92-013]を別レーベルに録音している。特に宗教曲小品を収めた前者は必聴盤。
【裏推薦】ニコラウス・アーノンクール指揮
ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス
シェーンベルク合唱団 (1986年録音)[TELDEC:8-43535]
楽章間にア・カペラのアンティフォナ(交誦)を挿入するという当時の慣習を復活させた演奏。アーノンクール節に好みが分かれるところ。
同じ古楽器演奏では、ペーター・ノイマン指揮、コレギウム・カルトゥジアヌム、ケルン室内合唱団(2004年録音)[MD+G:MDG932-1346-6]もよい。ノイマンについてはたびたび推奨してきたが(拙稿参照)、これはその最新録音。演奏はアーノンクールの対極にあり、清純に過ぎるかもしれないが、相変わらず合唱の扱いが巧み。
■大ミサ曲[未完] ハ短調 K.427煩瑣な版問題がある《レクイエム》(ジュースマイヤー版、バイヤー版、モーンダー版、ランドン版、ドゥルース版、ヴァド版、レヴィン版、フロスワス版、リオデジャネイロ版など)は見送って…、といってもこの《ハ短調大ミサ》も未完であり、数種の版(シュミット版、ランドン版、エーダー版、バイヤー版、モーンダー版、レヴィン版など)が存在する。しかし、ソプラノ独唱部“エト・インカルナートゥス”を聴けば、そんなことはささいな問題。
【推薦盤】ヘルムート・リリング指揮 〈エーダー版〉
シュトゥットガルト・バッハ=コレギウム
シュトゥットガルト・ゲヒンガー・カントライ (1997年録音)[HÄNSSLER:CD98-145]
独唱、合唱、オーケストラの三拍子が揃った演奏はなかなか見あたらず、決定盤はいまだないが、これは満足のいく演奏。意外なことに、クラウディオ・アバト、ベルリン・フィル、ベルリン放送合唱団の演奏(1990年録音)[SONY:SMK89793]が独唱(バーバラ・ボニー!)ともどもよい。
【裏推薦】シギスヴァルト・クイケン指揮
ラ・プティット・バンド
オランダ室内合唱団 (1985年録音)[DHM:BVCD5002]
実はこれ、モーツァルト自身が後にアリアを追加して改作したオラトリオ《悔悟せるダヴィデ》K.469による演奏である。よって、歌詞はまったく別物。テノール独唱のハンス=ペーター・ブロホヴィッツが素晴らしい。ちなみにカップリングの《アヴェ・ヴェルム・コルプス》K.618は同曲最高の演奏。
《ハ短調大ミサ》の映像では、ジョン・エリオット・ガーディナー指揮、イングリッシュ・バロック・ソロイスツ、モンテヴェルディ合唱団の没後200年命日ライヴが同者のスタジオ録音よりもよい(1991年:BBC、フィリップス製作)。特に、独唱のバーバラ・ボニー(ソプラノ)、アンネ=ゾフィ・フォン・オッター(メゾ)、アントニー・ロルフ・ジョンソン(テノール)が素晴らしい歌声を聴かせる。
■歌劇《ドン・ジョヴァンニ》 K.527何度聴いても視ても、「恐ろしい喜劇」である。フェデリコ・フェリーニの映画《カサノバ》(1976年)とともに楽しみたい。実は、モーツァルトは伝説的好色漢ジャコモ・カサノヴァと《ドン・ジョヴァンニ》作曲の頃、プラハで会っている。
【推薦盤】ジャン=クロード・マルゴワール指揮
ラ・グランド・エキュリ・エ・ラ・シャンブル・デュ・ロワ(王室大厩舎・王宮付楽団)
(1996年録音)[ASTRÉE:E8635]
このオーケストラ独特の土臭さが、《ドン・ジョヴァンニ》にぴったり。幕切れ“地獄堕ち”のきびきびした表現がかえって空恐ろしい。ウィーン版による演奏。
【裏推薦】ブルーノ・ワルター指揮
メトロポリタン歌劇場管弦楽団 (1942年録音:ライヴ)[MEMORIES:HR4225]
稀代のドン・ジョヴァンニ歌手エッツィオ・ピンツァに魅了されるが、何といってもワルターの指揮!彼はやはりオペラ指揮者である。後に量産されるスタジオ録音の比ではない。
映像は多数あるが、ここは古くてもフルトヴェングラー指揮でチョーザレ・シエピがタイトルロールを歌った1954年ザルツブルグ音楽祭のもの(ロバート・マックスウェル製作、会場はフェルゼンライトシューレ!)とジョセフ・ロージー監督、ルッジェーロ・ライモンディ主演、オール・ロケのオペラ映画(1979年:フランス、ゴーモン製作)をお薦めしよう。
テーマ:クラシック - ジャンル:音楽
- 2008/03/27(木) 14:36:58|
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