これからきくひと篇(1) これからモーツァルトを聴いてみよう、というひとのために、よく知られた曲から選択しました。もちろん既に聴いているよ、というひとでも是非【推薦盤】や【裏推薦】で聴き直してみてください。
■シンフォニー[第40番] ト短調 K.550あまりにお馴染みゆえ、食傷しているむきも多かろうが、ひたすら聴き続け、主旋律以外の内声や管楽器にも耳が向かうようになると、決して飽きることがない“殿堂入りの曲”となる。第38番《プラハ》も薦めたかったが…。
【推薦盤】オイゲン・ヨッフム指揮 〈クラリネットなし版〉
バンベルク交響楽団 (1982年録音)[ORFEO:C045901A]
いわゆるモーツァルト指揮者としてヨッフムの名が挙がることはまずないが、晩年(80年代前半)に遺した一連のシンフォニー録音は、まさに驚異的。
この演奏の妙は、なかなか筆舌に尽くしがたいが、第一には、立体的な各楽器の扱い、そのバランスの良さであろう。かなり大編成のオーケストラを用いているため、中低音部は当然重くなるはずであるが、それが何ともヌケの良い豊穣な響きを奏でており、決して管楽器をマスクすることはない。
ヨッフムは、知る人ぞ知るモーツァルトの管楽器ロングトーンや内声に洞察を示しており、結果、たとえば(普段目立たないはずの)ファゴットやフルートがこんなにも雄弁に語る曲であったのか、と再認識させられることとなる。《ハフナー》《プラハ》も名演。
【裏推薦】ニコラウス・アーノンクール指揮 〈クラリネットあり版〉
ヨーロッパ室内管弦楽団 (1991年録音:ライヴ)[TELDEC:9031-74858-2]
ここではコンセルトヘボウ管との衝撃的なスタジオ録音(1982年:TELDEC)ではなく、没後200年記念ライヴをお薦めしよう。一夜に三大シンフォニーを演奏した当日の映像も残されており(ウィーン楽友協会大ホール、ユニテル製作)、《ジュピター》終楽章の何かが憑依した指揮ぶりは必見。
クレメンティ四重奏団による四重奏曲編曲版(フルート、ヴァイオリン、チェロ、クラヴィア)〈M.クレメンティ編曲〉(1994年録音)[AGORA:AG003]は下手物ながら受容史としてはおもしろい。
■ディヴェルティメント[第15番] 変ロ長調 K.287深刻、諧謔、憂愁が交差するモーツァルトのディヴェルティメント。その典型がこの第15番。特に第4楽章のアダージョは必聴。
【推薦盤】カール・ミュンヒンガー指揮
シュトゥットガルト室内管弦楽団 (1984年録音)[INTERCORD:INT830-843]
ホルン2、ヴァイオリン2、ヴィオラ、バスの室内楽編成で演奏されることも多いが、やはりこのアダージョはオーケストラで聴きたい。上品な演奏である。
【裏推薦】アルトゥーロ・トスカニーニ指揮
NBC交響楽団 (1946年録音:ライヴ)[GUILD:GHCD2232-3]
トスカニーニのモーツァルトはかなりレパートリーが偏っており、同じ曲を繰り返し演奏しているが(例えばハフナー・シンフォニーは5種の録音が遺る)、この曲もお気に入りだったようだ(RCAのスタジオ録音あり)。このライヴは11月3日のNBCラジオ公開録音の全編であり、CDには前日のリハーサルも収められている。「嬉遊曲」との訳語に不釣り合いな、何だかスゴイ演奏。
■ピアノ協奏曲[第23番] イ長調 K.488傑作揃いのピアノ協奏曲から一曲選択するのは無理な話。20番台であれば個人的には最近22番や25番に惹かれるが、ここはまず簡潔で寸分の隙もない23番を。
【推薦盤】クリフォード・カーゾン(ピアノ)
ラファエル・クーベリック指揮
バイエルン放送交響楽団 (1975年録音:ライヴ)[AUDITE:audite95-466]
録音嫌い、かつ録音しても発売嫌いのカーゾンであったが、死後発掘が続いている。最近もジョージ・セル指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団と共演した第23・27番の録音が国内初発売された(1964年録音)[DECCA:UCCD3429]。
褒められることの多い、ベンジャミン・ブリテンやイシュトゥヴァン・ケルテスとのスタジオ録音(DECCA)にはあまり感心しないが、このライヴには震撼。クーベリックのサポートも文句なし。バイエルンの木管の素晴らしさ!
【裏推薦】スティーヴン・ルービン(フォルテ・ピアノ)
ランサム・ウィルソン指揮
モーツァルティアン・プレーヤーズ (1982年録音)[ARABESQUE:Z6530]
1785年アントン・ワルター製作フォルテ・ピアノのコピーを使用。オーケストラも最小限(6.2.2.1)で、ほとんど室内楽。その分管楽器のウエイトが上がり、モーツァルト本来の管・弦のバランスが自然に取り戻されている。
映像ではゾルタン・コチシュの演奏が興味深い。セミ・グランド(!)を即興性(前奏から通奏低音を入れている)をもった強烈な打鍵で弾ききっている(1990年:ドイツ・ユーロ・アーツ社製作“Mozart on tour”の一篇)。別の曲だが、第20番と第26番《戴冠式》とをフリードリッヒ・グルダが、ミュンヘン・フィルハーモー管弦楽団と弾き振りで共演した映像ライヴ(1986年:PHILIPS)は必見。
また、この第3楽章ロンドの暗譜は意外に難しいらしい。アルトゥール・シュナーベルがアルトゥール・ロジンスキー指揮、ニューヨーク・フィルとおこなったライブ(1946年録音)[ASDISC:AS611]では、シュナーベルが突然間違ったパートを弾き始め、演奏が中断している。ハラハラさせられる盤だ。
ちなみにこの協奏曲に対応するピアノ・ソナタは、調性は違うもののハ長調の第10番K.330であろう。まったく無駄音のない簡潔な第1楽章である。演奏は、グレン・グールドの旧録音(1958年録音)[SONY:0526262004](全集所収、1970年録音の超高速演奏の方ではない)や、最近発見されたフリードリヒ・グルダの自宅でのプライベート録音(1980年録音)[DG:00289-477-6130]がよい。
■クラリネット協奏曲 イ長調 K.622管楽器の協奏曲からは、やはりこれだろう。死の直前に完成された晩年の傑作である。どの楽章にもカデンツァを置く余地すら残されていない。
【推薦盤】チャールズ・ナイディック(バセット・クラリネット)
オルフェウス室内管弦楽団 (1987年録音)[DG:431-665-2]
通常のA管クラリネットよりも長3度低い音域まで演奏可能なバセット・クラリネット(モーツァルトの友人でクラリネット奏者アントン・シュタードラー改良)による復元譜演奏。現行版よりも低音域独特の音色が存分に楽しめる。
古楽器ではジャン=クロード・ヴァルハン(バセット・クラリネット)、ジャン=クロード・マルゴワール指揮、ラ・グランド・エキュリ・エ・ラ・シャンブル・デュ・ロワ(1989年録音)[K617:K617030]を薦めよう。
【裏推薦】ジル・トメ(バセット・ホルン)
キアラ・バンキーニ指揮 アンサンブル415○古 (1999年録音)[ZIGZAG:ZZT990701]
クラリネット協奏曲は、当初バセット・ホルン(古いクラリネットで、管の中間部分が90度屈曲)のために書き始められたようで、その草稿がト長調の断章K.621bである。これはその断片をもとに第1楽章を完成させたバセット・ホルン協奏曲の世界初録音である。
ちなみに、最近テオドール・ロッツ作の特異な球根型先端部をもつバセット・クラリネットが当時のコンサート・プログラムの挿絵(1794)から復元され、エリック・ヘープリッチの演奏で聴けるようになった(復元製作もヘープリッチ自身)。
協奏曲は、フランス・ブリュッヘン指揮、18世紀オーケストラ(2001年録音)[GLOSSA:GCD921107]。クラリネット五重奏曲K.581の方は、ミュージック・フロム・アストン・マグナの伴奏(1999年録音)[CENTAUR:CRC2561]。
■弦楽四重奏曲[第14番] ト長調 K.387モーツァルトが、難産の末に送り出した6人の息子、とハイドンへの献辞で語る《ハイドン・セット》から一曲。その愛称ゆえに有名な《狩り》や《不協和音》よりも、個人的には第16番を好むが、ここでは長男をお薦めしよう。特に終楽章は全編フーガでソナタ形式というホモフォニーとポリフォニーとの奇蹟的融合である。
【推薦盤】スミソン弦楽四重奏団 (1994年録音)[VIRGIN:VC5-45029-2]
スミソニアン博物館所蔵の名器による演奏。第1ヴァイオリンは、80年代にクリストファー・ホグウッドと古楽器による《シンフォニー全集》(L’OISEAU-LYRE)72曲の偉業を成し遂げたヤープ・シュレーダーである。
【裏推薦】バリリ弦楽四重奏団 (1953年録音)[WESTMINSTER:9031-73415-2]
バリリ四重奏団が《ハイドン・セット》からは一曲しか録音を遺さなかったことは痛恨の極み。
古楽器が重なるので筆頭には挙げなかったが、モザイク弦楽四重奏団(1990年録音)[ASTRÉE:E8746]も聴きたい。《プロシヤ王セット》3曲や第20番《ホフマイスター》は必聴である。
映像ではゲヴァントハウス弦楽四重奏団(2005年:ドイツ、ザクセン州ラメナウ城、ユーロ・アーツ社製作)が必見。
テーマ:クラシック - ジャンル:音楽
- 2008/03/27(木) 14:16:32|
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