銀蛇亭贅語 〜 莫扎特(モーツァルト)音盤記

モーツァルトの音盤(CD、DVD等)についてつづる視聴記。随時、推薦盤の紹介もおこないます。

ネパールのモーツァルト

             ネパールのモーツァルト

妙なお題で失礼します。

『チベットのモーツァルト』(中沢新一、講談社学術文庫)ってぇのは聞いたことがあるけど、ネパールとは面妖な……といぶかる御仁も多かろうとお察し申し上げます。

道頓堀でト短調シンフォニーが頭の中で鳴り出した小林秀雄よろしく、亭主も別にネパールで神秘的なモーツァルト体験をした、なぞと言いだすわけではありませぬ。

今日はちょこっと、ネパールからモーツァルトの音盤が届いたことをお話しします(正確には通なお店に輸入してもらった)。以下の2種であります… *ジャケット不敢掲載

■KARNA:KA202M(2枚組限定盤) *世界初出
 ディヴェルティメント K.136
 交響曲第40番 K.550
 交響曲第41番 K.551
  リッカルド・ムーティ指揮 バイエルン放送交響楽団
   2006年3月31日ライヴ、ミュンヘン(ガスタイク)

■KARNA:KA375M(限定盤) *世界初出
 交響曲第25番 K.183
 交響曲第40番 K.550
  サイモン・ラトル指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
   2006年9月1日ライヴ(「プロムス2006」)、ロンドン(ロイヤル・アルバート・ホール)


うーん、スゴイ。現在、爆弾事件や選挙争乱で渡航注意となっているネパールでこんな公演していましたか…そんなはずはありませんね。上掲データにあるように、ミュンヘンとロンドンでの2006年ライヴです。

これを発売したKARNAレーベルは、ネパールの会社。去年4月に休業したそうです。きわめて簡素なジャケット(もちろん解説等はなし)には Made in Nepal とありますが、リマスタリングはドイツでおこなっているとのこと…わからんなあ〜。ちなみにCD-Rです。

もちろん正規代理店はなく、“貝族蛮”なんでしょうけれど、ネパール産っていうところがしゃれていますね。けっこうすごいアイテムが揃っていますが、亭主は上掲2種のモーツァルトを手に入れてみました。さて、肝腎の演奏は…

ムーティはこの組み合わせが気に入っているようで、1991年モーツァルト没後200年ザルツブルク音楽祭でもウィーン・フィルとこれでオープニングを飾っていますよね(7月28日、ザルツブルク祝祭大劇場。映像あり、PHILIPS)。今回の音盤は、その15年後、バイエルン放送響とのもの。

まずはK.136のディヴェルティメント。昨今、この曲を大編成のオケで堂々と演奏する勇気のある指揮者はみかけなくなりました。もちろん古楽器演奏が盛んとなった結果であり、特にこのような曲の場合、大交響楽団としては、極端に奏者数を刈り込む(臨時室内管弦楽団化)、ピリオド奏法を取り入れる(古楽系指揮者の招聘)、そもそも演奏会に取り上げない(レパートリーから外す)…等々の対策を施さないと、いまどき何やってんだっ! とのお叱りを受けること必至です。

実際、このところK.136を含むディヴェルティメント・セレナード類については、ピリオド楽器によるすばらしい録音が次々発売されています。棚を見回しても…

  フライブルグ・バロック・オーケストラ(HMF)
  イングリッシュ・コンサート(HMF)
  ル・コンセール・デ・ナシオン(ALIA VOX)
  アンサンブル・ゼフィロ(DHM)
  アンサンブル415(ZIGZAG)
  レ・フォリー・フランセーズ(ALPHA)
  オーケストラ・リベラ・クラシカ(TDK)
  ラ・プティット・バンド(ACCENT)
  ラ・グランド・エキュリ・エ・ラ・シャンブル・デュ・ロワ(K617)


等々ここ数年発売の盤がひしめいております(いずれ紹介したい盤ばかり)。

これらの演奏を聴いた後では、近代の肥大化した大オーケストラの分厚い響きでディヴェルティメントを聴くのは、正直しんどいですし、演奏する方だってアナクロだなあ、と思うことでしょうよ。

そんな風潮のなか、ムーティは多少奏者を減らしても交響楽団の響きを保ちつつ、十分に訓練したオケに躍動感ある解釈を与え、グイグイひっぱってゆきます。もっちゃり、ぶよぶよといったメタボなところは微塵もありません。肥満なのではなく“豊饒”なのですね。これにはバイエルン放送響の弦の美しさもおおいに寄与しています。このスタイルの演奏で弦が下手では聴くに堪えませんよ。

ちまたでは、ムーティのモーツァルトは伝統的スタイルとされているようですが、私見ではかなりピリオド奏法を意識はしていると思います。しかし、「意識している」と「実行する」というのは別でして、ムーティは前者。「意識」というのは、たとえば40番のシンフォニーを聴くと弦と管、フォルテとピアノのバランスに細心の注意が払われていることがわかりますね。

40番、終楽章の最後、294小節と298小節目に現れる木管の上昇音型を浮き立たせるために、わざと弦を急激にディミヌエンドさせるところなぞは、ちょっとクサイけれども、実演ではかなり効果的なんじゃないかなあ。ちなみに展開部以降リピートあり。

なお、第1楽章で第1ヴァイオリンのひとりが大きくミスしているのがご愛嬌。細かくいえば、提示部リピートの際、80小節目の後に88小節目の音型を弾き始めてしまいます。おそらく80小節目と同じ音型が現れる87小節目と勘違いしての勇み足なのでしょうね。それでも下手にいじくりまわさない録音の生々しさともあいまって、一連の演奏に亭主感服いたしました。

モーツァルト演奏において全盛のピリオド奏法ですが、モダン・オケに安易には取り入れない態度、かといって旧態然としたルーティンのモーツァルト演奏もしないムーティの姿勢に好感がもてました。

同世代にバレンボイム(1942-)がいますが、実は両人ともに亭主の興味外にある演奏家でした。バレンボイムのピアノはまったくよいと思いませんし、指揮もまったく関心を呼び起こしませんが、ムーティは今おもしろい、と感じています。モーツァルトにあってはウィーン・フィルよりもバイエルン放送響の方が、ムーティとは相性よいかも。

若い若いと思っていたムーティ(1941-)も、この演奏時すでに65歳! 現在古稀をひかえた彼に、もう少しモーツァルトを演奏してもらいたい、と亭主は願っています(バイエルン放送響との《プラハ》が聴きたいなあ)。

ちなみにムーティの40番にはこれと既述PHILIPS盤(ライヴ、スタジオ両盤あり)の他に、ウィーン・フィル自主制作による以下の音盤がありますが、バイエルン盤にはおよびません(録音こもり気味)。

muti_40.jpg自主制作盤 muti_DVD.jpg上述DVD盤

■ウィーン・フィル自主制作盤:WPH-L-K-2006
 モーツァルト:交響曲第40番 K.550
 プロコフィエフ:古典交響曲 Op.25
 シューベルト:交響曲第6番 D589
  リッカルド・ムーティ指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
   2000年4月2日(ライヴ)、ウィーン(ムジークフェラインザール)


お次はラトル。ト短調シンフォニーは重なっていますね。

ラトル(1955-)のモーツァルトといえば、古楽器団体エイジ・オブ・インライトゥンメント・オーケストラとの《コシ・ファン・トゥッテ》(95年ライヴ、EMI)があるくらいでしょうが、実演ではけっこう振っているんですよね。一般にはピリオド奏法にも造詣が深い、といわれているようです。

当盤は、ロンドン夏の音楽祭“プロムス”のライヴ。生誕250年を記念したもので、手兵ベルリン・フィルを率いての大小ト短調シンフォニー。当然ながら(?)、テンポ設定も含めてピリオド奏法を存分に取り入れた演奏です。

全体的に軽薄な演奏でした(特に40番)。新奇な手管をちょこちょこ繰り出すのですが、説得力は弱いですね。それでも25番は下手な小細工がさほど耳につかず、特に第1・2楽章はよいと思いました。

第3楽章トリオ部で、オーボエがきわめてセンスのないアドリブをこれでもかとばかり入れ始めたのにはさすがゲンナリしました…(でも、実は指揮者の指示・許可ではなく、当日突然に興がのっちゃった、ラトルもビックリっ、ていうのならベルリン・フィルもたいしたもんだが)。

こういった演奏、一昔前の亭主であったら快哉を叫んでいたかもしれません。実演で聴けばもっと好印象をもつかなあ、…ロンドンっ子は拍手喝采でした。

ところは違えど同じ2006年アニヴァーサリー、いずれもドイツの名門モダン・オーケストラでモーツァルトを指揮した人気のマエストロふたり。しかし、結果は好対照でした。

 【追 補】 (4.24)

ラトルのモーツァルトには、最近以下の音盤がありましたね。亭主も架蔵しておりましたが、すっかり失念しておりました。

■コジェナー:モーツァルト・アリア集 [ARCHIV:UCCA1068]
 歌劇《フィガロの結婚》〜スザンナ、ケルビーノのアリア
 コンサート・アリア「どうしてあなたが忘れられましょう」 K.505
 歌劇《コシ・ファン・トゥッテ》〜デスピーナ、フィオルディリージ、ドラベッラのアリア
 歌劇《皇帝ティトゥスの慈悲》〜ヴィッテリアのアリア
 歌劇《クレタの王イドメネオ》〜イリアのアリア
 コンサート・アリア「私は行く、しかしどこへ」 K.583
 歌劇《フィガロの結婚》〜ケルビーノのアリア
 コンサート・アリア「大いなる魂と高貴なる心」 K.578
 歌劇《フィガロの結婚》〜スザンナのアリア[差し替え稿第28曲a]
  サイモン・ラトル指揮、エイジ・オブ・エンライトゥンメント・オーケストラ
  マグダレーナ・コジェナー(メゾ・ソプラノ)
  ジョス・ファン・インマゼール(フォルテ・ピアノ)

rattle_kozena.jpg
 コジェナーは、ザルツブルク音楽祭に出演するなど人気のメゾ。
 モーツァルトを得意にしていまして、特に《ティトゥスの慈悲》は当たり役。
 マッケラス指揮の全曲盤(DG)ではセスト役を好演しております。
 2006年ザルツブルク音楽祭ガラ・コンサートでもハーディング指揮、
 ウィーン・フィルとアリアを披露しておりましたね(NHKが放送)。


テーマ:クラシック - ジャンル:音楽

  1. 2008/04/17(木) 19:22:19|
  2. 指揮者

プロフィール

KonLon

Author:KonLon
    戊子季春開亭

モーツァルト歴:
    (まだ?)30年
亭  訓:
   文質彬彬

*記事中の一人称「亭主」とは管理人のことです。

  詳しい亭主紹介はこちら

*上掲の画像…
プラハ郊外のベルトラムカ荘にて[2006.9.20]...一応階段中央に写っています...

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