銀蛇亭贅語 〜 莫扎特(モーツァルト)音盤記

モーツァルトの音盤(CD、DVD等)についてつづる視聴記。随時、推薦盤の紹介もおこないます。

文質彬彬(4):ドン・ジョヴァンニ K.527

  文質彬彬(4) 歌劇《ドン・ジョヴァンニ》 K.527

「悪党、汝の頭上にいかづち落ちん!」…詰め寄られるドン・ジョヴァンニと従者レポレッロ…「たとえこの世が崩れんとも、俺を恐れさせるものなど何もない!」…叫ぶドン・ジョヴァンニ…

第1幕の幕切れ怒濤の7重唱。ノリにノったモーツァルトの筆は第17場からよどみなく流れ、ダンスをともなう大宴会でのこもごもの駈け引きを見事に描き出す。それは、第2幕“地獄堕ち”直前のドン・ジョヴァンニ一人きりの食事 ― 最後の晩餐と一対をなしており、追い詰められる自分を、むしろ楽しんでいるかのごとき自虐的な姿こそは、ドン・ジョヴァンニの絶頂であって、頽廃的色香を芬々として醸す…

ここの音楽は、その昔亭主を魅了し、モーツァルト・オペラの世界に引きずり込んだ箇所のひとつです。ドラマ・ジョコーソすなわち“冗談劇”なのだけれども、うーん、一筋縄ではゆかない深遠なるドラマですね。

帝都ウィーンではなく、自由を謳歌していたプラハだから、さらにモーツァルトを愛した街だからこそ成立し得たオペラなのでしょうか。

     ロレンツォ・ダ・ポンテ作 2幕のドラマ・ジョコーソ
     《罰を受けし放蕩者、またはドン・ジョヴァンニ》
       初演:1787年10月29日、プラハ帝国劇場(エステート劇場)

prague.jpg


プラハ城から旧市街・ヴルタヴァ河・カレル橋(右)をのぞむ
 [以下、亭主撮影] *請拡大

bertramka.jpgプラハ郊外、ドゥシェク夫妻の別荘ベルトラムカ
ここで《ドン・ジョヴァンニ》が仕上げられた。
ドゥシェク夫人ヨゼファは名ソプラノ歌手であり、モーツァルトは滞在のお礼に
コンサート・アリア「愛しいひとよ、さようなら…」K.528を贈った。
難曲ながらコンサート・アリアの白眉!

bertramka2.jpg



ベルトラムカ荘入口

estate.jpg

《ドン・ジョヴァンニ》が初演されたエステート劇場。
映画《アマデウス》はプラハで撮影され、
オペラ・シーンにはこの劇場が使われた。

《ドン・ジョヴァンニ》は、《イドメネオ》と並んで、亭主最愛のオペラなので、架蔵の音盤も多く、選択するのは容易でありませんが、以下印象に残る盤を年代順に…(カラヤンはともかく、ベームが入らなかったなあ)。また、映像のみは今回は除外。

dondiovanni_busch.jpgブッシュ盤  dondiovanni_walter1.jpgワルター盤(1937)

■フリッツ・ブッシュ指揮、グラインドボーン音楽祭管弦楽団(1936)▲
[EMI:CHS7-6103-2]


■ブルーノ・ワルター指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1937、ライヴ)
[URANIA:URA22.231]

*ドン・ジョヴァンニはエッツィオ・ピンツァ。

■ブルーノ・ワルター指揮、メトロポリタン歌劇場管弦楽団(1942、ライヴ)★♪
[MEMORIES:HR4225]NAXOS盤あり。

*ドン・ジョヴァンニはエッツィオ・ピンツァ。

dondiovanni_walter2.jpgワルター盤(1942) dongiovanni_szell.jpgセル盤(写真はエッツィオ・ピンツァ!)

■ジョージ・セル指揮、メトロポリタン歌劇場管弦楽団(1944、ライヴ)
[ARCHIPEL:ARPCD0116-2]
*ドン・ジョヴァンニはエッツィオ・ピンツァ。

■ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1953、ライヴ)▲
[BWS:90CD37-7313]EMI盤あり。左記はブルーノ・ワルター協会原盤のコロンビア盤。

*ドン・ジョヴァンニはチョーザレ・シエピ。54年収録の映像(会場はフェルゼンライトシューレ)あり(DG)。録音も50年、54年がある。

■ヨーゼフ・クリップス指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1955)▲
[DECCA:POCL3944]左記は国内盤。輸入盤多し。


dondiovanni_furt.jpgフルトヴェングラー盤  dondiovanni_klemperer.jpgクレンペラー盤

■オットー・クレンペラー指揮、ケルン放送交響楽団(1955、ライヴ)▲
[TESTAMENT:SBT2149]WDR原盤。


■ハンス・ロスバウト指揮、パリ音楽院管弦楽団(1956、ライヴ)▲
[Ina:IMV074]

*エクサン=プロヴァンス音楽祭ライヴ。50年、52年、58年のライヴ、56年のスタジオ録音(EMI)がある。

■カルロ・マリア・ジュリーニ指揮、フィルハーモニア管弦楽団(1959)
[EMI:TOCE9442]左記は国内盤。輸入盤多し。


■ロリン・マゼール指揮、パリ・オペラ座管弦楽団(1979)
[SONY:CSCR8064]

*ドン・ジョヴァンニはルッジェーロ・ライモンディ。ジョセフ・ロージー監督の映画版(フランス、ゴーモン製作)あり。

dongiovanni_pos.jpg 


 
 ロージー監督・映画『ドン・ジョヴァンニ』のポスター
 亭主が大学時代に京都で鑑賞した際のもの

■リボル・ペシェク指揮、プラハ室内管弦楽団(1981)
[C:COCQ84135]スプラフォン原盤。

*プラハ初演版による。

■ラファエル・クーベリック指揮、バイエルン放送交響楽団(1985)
[BV:BVCC7056]オイロディスク原盤。


■アルノルト・エストマン指揮、ドロットニングホルム宮廷劇場管弦楽団(1989)▲
[L’OISEAU-LYRE:425 316-2]

*別キャストの映像(1987年、PHILIPS)あり。

■ジャン=クロード・マルゴワール指揮、ラ・グランド・エキュリ・エ・ラ・シャンブル・デュ・ロワ(1996)★
[ASTRÉE:E8635]

*ウィーン版による。

■ダニエル・ハーディング指揮、マーラー室内管弦楽団(1999、ライヴ)
[VIRGIN:7243-5-45425-2-7]

*映像版(2002年、エクサン=プロヴァンス音楽祭)あり。ハーディングにはウィーン・フィルとのザルツブルク音楽祭映像(2006年、DG)もある。

■ルネ・ヤコブス指揮、フライブルク・バロック・オーケストラ(2006)
[HMF:HMC801964.66]


dondiovanni_rosbaud.jpgロスバウト盤  dongiovanni_malgo.jpgマルゴワール盤

ブッシュ盤は、《ドン・ジョヴァンニ》録音史の原点であり、折にふれて立ち返るべき秀演。

ワルターのウィーン・フィル盤は理想の組み合わせではありますが、少々音が貧しい。メトロポリタン盤こそは必聴盤。ワルターの指揮に勢いがありますし、歌手陣も理想的。なかんずくピンツァのドン・ジョヴァンニに魅了されます。晩年、スタジオでのコロンビア響とのシンフォニー録音などからは想像できないワルターの音作りにぐいぐいと引き込まれます。やはり彼はオペラ指揮者なんですね。同じメトでも2年後のライヴはセルの指揮。ワルターにはおよびません。

フルトヴェングラー盤は3種あり、いずれもザルツブルク音楽祭ライヴ。諸盤の録音年には疑義があるようですが、まずは53年盤といわれる録音あたりが妥当でしょう。フルトヴェングラーのモーツァルト・オペラとしては、むしろ《魔笛》(1951年ライヴ)の方がよい、と亭主は思っております。

クリップス、ジュリーニの両盤は世評高い定番のスタジオ録音ですね。年配の愛好家はみな架蔵されていることでしょう。

上掲したクレンペラー盤は、よく知られたフィルハーモニア管とのステレオ・スタジオ録音(EMI)ではなく、モノラルのライヴ録音です。弛緩したスタジオ盤よりも、断然クレンペラー本来の持ち味がでています。WDRのソースであり音質・復刻良好。同時期のライヴ、この曲がおはこだったロスバウト盤も聴いておきたいですね。

マゼール盤は、まずは映画の方を観ましょう。ペシェク盤は、初演地プラハのスタッフによる演奏で、版もそれに準じています。クーベリック盤は通好みの渋い演奏。

80年代後半、古楽器による演奏が登場します。先陣を切ったのがエストマン盤。映像もありますが、キャストの揃ったスタジオ録音盤をお薦めします(ツェルリーナはバーバラ・ボニー)。今でも新鮮な演奏であり、エストマン指揮の《コシ・ファン・トゥッテ》《フィガロ》《魔笛》と比べて一番の出来。まあ、フルトヴェングラー盤と対極にあるわけですが、この両極端の解釈を受け入れるモーツァルトの音楽はすごいなあ、とあらためて感嘆した次第。

エストマン盤よりもあくが強いのがマルゴワール盤。このオーケストラ特有の土俗的な響きが、このオペラによく合っていて、スペインの農村風景でもかいま見せるような瞬間が随所にあります。ウィーン版によっているので、“地獄堕ち”で幕切れです。

今人気のハーディングによるライヴ盤は評判のようですね。確かに一聴したときは、そのピリオド奏法を意識した鮮やかな棒裁きに感心しましたが、最近はめっきり聴かなくなりました。10年前の亭主であれば、真っ先に推奨していたかもしれません…。

最新のヤコブス盤は、彼の一連のモーツァルト・オペラ録音のなかでは最も成功したもの。《コシ》や《フィガロ》、また《ティトゥス》では耳障りだった解釈が、さほど気になりませんでした。

この他、オリジナル楽器使用による演奏として、ノリントン盤(92年、VIRGIN)やクイケン盤(95年、ACCENT)があり、もちろんモダン楽器によるアーノンクール盤(88年、TELDEC)や古いミトロプーロス盤(56年ライヴ、SONY)、ロスバウト盤(56年、EMI)、フリチャイ盤(65年、DG)などもそれぞれに特色があって挙げればきりがなくなります。

このオペラの場合、結局は共感できる自身のドン・ジョヴァンニを探すしかないのでしょうかねえ。

ちなみに《ドン・ジョヴァンニ》で最も恐ろしい場面は、“地獄堕ち”…ではなく、その後の大団円6重唱ですよ。

ドン・ジョヴァンニが地獄に堕ちたと知った面々が次々に歌いだす…

 ドン・オッターヴィオ:私に慰めを与えて…(ドンナ・アンナに求婚)
 ドンナ・アンナ:愛しいひとよ、一年待って…
 ドンナ・エルヴィーラ:修道院に入って一生を…
 ツェルリーナとマゼット:さあ、家に帰ってご飯だ、ご飯…
 レポレッロ:もっと上等な主人を早速にもみつけなきゃ…
 全 員:あの悪党は地獄で閻魔と暮らすといい、私たち、善人たちは楽しく繰り返そう、昔の歌を…
      「非道者の死は、いつでも生とは同じものなのだ!」

テーマ:クラシック - ジャンル:音楽

  1. 2008/04/15(火) 20:28:06|
  2. 歌劇

プロフィール

KonLon

Author:KonLon
    戊子季春開亭

モーツァルト歴:
    (まだ?)30年
亭  訓:
   文質彬彬

*記事中の一人称「亭主」とは管理人のことです。

  詳しい亭主紹介はこちら

*上掲の画像…
プラハ郊外のベルトラムカ荘にて[2006.9.20]...一応階段中央に写っています...

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