文質彬彬(2) ディヴェルティメント(弦楽三重奏曲) 変ホ長調 K.563 清明時節雨粉粉 清明の時節、雨粉粉たり
と晩唐の詩人、杜牧が詠った頃となりましたが、数日前の朝には雪が降り、花に嵐となりました。亭主が住まいいたすあたりは未だ桜はひらきません。来週あたりでしょうかね。
新年度あわただしきなか、せめて早朝の活動前には美味しいお茶、就寝前には一杯やりつつ静かな朝晩を過ごしたいものです。そんなとき取り出すのは、やはりシンフォニーやコンチェルト、オペラ…ではなく、室内楽、それも楽器数の少ない曲となります。今回は、春にふさわしい弦楽三重奏です。
数あるモーツァルト室内楽曲にあっても、燦然と輝く傑作のひとつがディヴェルティメントK.563です。オットー・ヤーン(1856)をして「疑いもなくモーツァルトの最も驚嘆すべき創作の一曲」と言わしめたのも首肯せらるべきところ。全6楽章のディヴェルティメント(嬉遊曲)とはいうものの、娯楽的要素はきわめて少なく、その室内楽的彫琢の極地は、かの《ハイドン・セット》と互角であろうと思います。聴き所は、第1楽章、第2楽章アダージョ、終楽章ロンド(歌曲《春への憧れ》K.596を先取り!)でしょう。
作曲:1788年9月27日、ウィーン
晩年に借金を重ねた相手、プフベルクのために書かれた、と一般的にはされていますが、俗なところ、卑屈なところは微塵もありません。
なお、この曲には草稿と考えられたト長調の断片K.562e(Anh.66)、100小節が残されています。しかし、近年の研究(アラン・タイソンの自筆譜用紙研究)では、K.563のスケッチではなく、最晩年に着手され、死によって未完成に終わった作品であることがわかりました。完成されていれば、間違いなく傑作となっていたものと十分に推され、まことに残念!
ということで、亭主の推薦盤案内にまいりましょう。名作だけに録音もそこそこにありますが、注目されるのは以下の盤でしょうか…

フックス兄弟盤

ドイツ三重奏団盤
■ハイフェッツ(Vn)・プリムローズ(Va)・フォイアマン(Vc)盤(1941)[BIDDULPH:LAB074]▲ *原盤はRCA。「オーパス蔵」でも復刻されている(OPK2062)。
■フックス兄弟(Vn、Va)・トルトゥリエ(Vc)盤(1953、ライヴ)[KOCH:3-7004-2]▲ *フランス・プラド音楽祭ライヴ。カップリングは、フックス兄弟による協奏交響曲K.364で、指揮はパブロ・カザルス(!)。
■グリュミオー・トリオ盤(1967)[PHILLPS:454023] *様々なかたちで再発売され続けており入手容易。上記は最近の2枚組輸入盤。
■クレーメル(Vn)・カシュカシアン(Va)・マ(Vc)盤(1984)[SONY:22CD5563] *再発売され続けており入手容易。
■ドイツ弦楽三重奏団盤(1989)[INTERCORD:INT830-873]▲ *珍曲「弦楽三重奏曲(断片)ト長調 K.562e(Anh.66)」をフランツ・バイヤー補作版でカップリング。
■トリオ・リチェルカーレ(1991)[RICERCAR:RIC096080]★♪ *ヴィオラは寺神戸亮。BRILLIANT CLASSICSのMOZART EDITION Vol.16にも所収。
■レオポールド弦楽三重奏団盤(2000)[HYPERION:CDA67246]★ *弦楽二重奏曲K.424とカップリング。

トリオ・リチェルカーレ盤

レオポールド三重奏団盤
※ちなみに古楽器による演奏としては、他にラルキブデッリ盤(90、SONY)、アレア・アンサンブル盤(02、CREMONA)がある。両盤ともに演奏はイマイチ。
ハイフェッツ盤は、曲の核心をグリグリとえぐり出す熱い演奏。おそらく同曲最初の録音。流麗かつ艶麗なグリュミオー盤と一対をなすものとして、いずれも聴いておきたいところ。フックス盤も往年の貴重なライヴ。
クレーメル盤は世評のたいへん高いものですが、亭主は好みません。クレーメルならば、弦楽二重奏曲K.423、424の録音(1984、DG)の方が名演。
ドイツ弦楽三重奏団盤は、なんといってもK.562eの断片が聴けるのがうれしい。それもフランツ・バイヤーの補作版で。この珍曲は、他ではカラフツ・トリオ(77、INTERCORD)や展開部で中断してしまうフランス弦楽三重奏団(78、CCV)、アカデミー室内合奏団(89、PHILIPS全集)の各盤(前2者はLP)くらいでしか聴けないから、とても貴重であります。メンバーはシュトゥットガルト放送響やバイエルン放送響の奏者です。
最も推薦したいのは、トリオ・リチェルカーレ盤。古楽器だから、ということではなく、演奏そのものがきわめて濃密ゆえ。録音も生々しい。現在RICERCAR原盤は入手困難のようですが、幸いにもBRILLIANT CLASSICSの廉価盤MOZART EDITIONに収められたので、セットでの購入は容易。
レオポールド盤は、若々しい今風の演奏。上述盤のごとき“熱さ”や“濃さ”は皆無ですが、室内楽にそういうものを求めない向きには、きわめて優秀な演奏といえるでしょう。
さて、明日は大風も落ち着き、うららかな春の日和を期待したいところですが、起床一番、如上いずれの盤で出勤前を飾りましょうか…。
テーマ:クラシック - ジャンル:音楽
- 2008/04/02(水) 21:17:22|
- 室内楽曲
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