ガリー・ベルティーニの《ハ短調ミサ曲》モーツァルトの二大トルソーである、《レクイエム》と《ハ短調ミサ曲》。いずれも未完であることが悔やまれ、現在まで多様な補訂版・補完版が濫立しております。それらについては、今ここで紙幅を割くわけにはゆきませんが、もしどちらかが完成されていたとしたら…、と選択を迫られれば、迷うことなく《ハ短調ミサ曲》を選びますね。それほど好きな曲ですし、当然《レクイエム》以上の傑作、モーツァルト全作品中にあっても、(未完でありながら)上位にのぼる楽曲だろうと思います。
そんな曲ですから、なかなか満足のゆく演奏に出会うことはありません。架蔵の音盤約30種でもほんの数枚でしょう。そこに先日発売のライヴ演奏盤が届いたのです。
■Phoenix Edition:PE116 (2枚組)
CD1:大ミサ曲 ハ短調 K.427[エーダー版]
アーリーン・オジェー(S)
ドリス・ゾッフェル(Ms)
トマス・モーザー(T)
スティーヴン・ロバーツ(B)
録音:1986年5月31日(ライヴ)
CD2:レクイエム K.626
クリスティーナ・ラキ(S)
ドリス・ゾッフェル(Ms)
ロベルト・スヴェンセン(T)
トーマス・クヴァストホフ(B)
録音:1991年5月18日(ライヴ)
ガリー・ベルティーニ指揮、ケルン放送交響楽団、同合唱団といっても、《ハ短調ミサ曲》の録音は20年以上も前、実はCDでの発売も二度目なのではあります(2年前に独CAPRICCIOからSACDで発売済。入手可)。
亭主としては「マーラー指揮者のベルティーニかあ…う〜ん…」と、特段触手も動かず、購入しなかったところへ、《レクイエム》とカップリングされ別レーベルから廉価となって再発売されたのです。先にベルティーニ指揮の下掲のコンチェルト選集をツァハリス目当てで買ったところ、その指揮振りに納得しないまでも「ほほお〜」と思っていたので、これを機に注文したという次第。
■CAPRICCIO:71069
ヴァイオリン協奏曲第5番 K.219《トルコ風》
ピアノ協奏曲第25番 K.503
フランク・ペーター・ツィンマーマン(Vn)
クリスティアン・ツァハリアス(p)
ガリー・ベルティーニ指揮、ケルン放送交響楽団ガリー・ベルティーニ(1927−2005)は旧ソ連のモルドヴァ共和国生まれ。日本ではマーラーの解釈者として名高く、東京都交響楽団の音楽監督(98−05)も務め、一連のマーラー演奏・録音を遺していました。
ベルティーニは幼少の頃にパレスチナに移住しテルアヴィヴで音楽教育を開始したのち入欧。イタリアを経てパリでメシアンやオネゲルに作曲・指揮等を学んだそうです。
1958年帰国し、イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団で指揮者デビュー。その後はスコティッシュ・ナショナル管弦楽団首席客演指揮者(71−81)、エルサレム交響楽団音楽監督(78−86)等を経て、ケルン放送交響楽団首席指揮者(83−91)として同楽団と多くの名演を繰り広げました。特にマーラー交響曲全曲録音は有名ですね(EMI)。
さて今回のモーツァルト。久々に強い感銘を受けた盤となりました。彼の実演に接しようともしなかったおのが不明を愧じいるばかりであります。日本では、ケルン放送響と都響とでマーラーを中心とするコンサートがサントリー・ホールやみなとみらいホールで頻繁に催されていたにもかかわらず、ついに聴かずじまいとなりました。就中《ハ短調ミサ曲》を聴くにつけ、声楽付きのマーラーはすばらしかったであろうと想像します。2005年、テルアヴィヴにて逝去、享年77。
当盤の聴き所は数々あります。過不足のないテンポ、精妙なバランス、金管群の深い響き、意味のある低音部、独唱と合唱の充実……。なお、重要な役割を果たすソプラノ独唱に、今は亡きアーリーン・オジェーがあたっており、ホグウッド盤(L’OISEAU-LYRE、88)での歌唱以上のでき。難曲「エト・インカルナートゥス」も見事にこなしております。
しかし、なにより一番は完成度のきわめて高いライヴであることでしょう。しかも音盤上では時としてシラけることにもなり得る空回りした熱気の発散が微塵もなく、かわって立ち現れるは透徹としたブロンズのトルソー。その凝縮された筋肉の躍動感に、かえってこちらがじわじわ熱くなるといったふうなのです。
《ハ短調ミサ曲》の名盤がここに加わりました。そうして今、続く《レクイエム》に針をおろそうとしているのです……
テーマ:クラシック - ジャンル:音楽
- 2008/08/01(金) 15:05:07|
- 指揮者
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