シギスヴァルト・クイケンによる最新(2000’ s)モーツァルト演奏5種(その1)過日の地震は、この辺りは大きな被害はなかったものの、けっこう揺れました。かように自然災害が続くと、“天譴”ではないかと疑いたくもなります。お見舞いありがとうございました。
さて、先月のラ・プティット・バンド来日公演(大阪)に行った友人から、「最近のクイケンには、どんなモーツァルト演奏があるの?」との質問がありました。寺神戸亮のモーツァルトを取り上げるにあたっては、どうしても頻繁に師クイケンに触れざるを得ないので、実はさほど熱心な聴き手でもなかった亭主でありながら、このところ当亭において名前が頻出しておりました。以前購入した音盤をだいぶ聴き直しました。
友人の云う“最近”とはいつ頃か決めづらいところですが、シギスヴァルト・クイケンのモーツァルト録音歴は、70年代から開始され、約30年になりますので、ここでは録音数とも勘案し、“最新”というほどでもありませんが、2000年代に録音された亭主架蔵の音盤を以下年代順に2回でごく簡単に紹介しましょう。
*亭主のお薦め具合を★数で添えておきます(無印・★・★★・★★★の4段階)。
■DHM:82876 55782 2(2001年)★
アリアとデュエット集
・《コシ・ファン・トゥッテ》〜グリエルモ、フェルランドのアリア・デュエット
・《偽りの女庭師》〜ナルドのアリア
・《ドン・ジョヴァンニ》〜ドン・ジョヴァンニのカンツォネッタ
・《悔悟せるダヴィデ》〜アリア
・コンサート・アリア K.431、513、209、541、420 クリストフ・ゲンツ(T)、シュテファン・ゲンツ(Br)
シギスヴァルト・クイケン指揮、ラ・プティット・バンドなかなかに人気のドイツの若手ゲンツ兄弟を迎えての“アリアとデュエット集”。70年代生まれの兄弟は、ともに聖トーマス教会聖歌隊出身で、清澄な歌い口が持ち味。ジャケットからすると、兄弟競演(対決?)ということなのでしょうね。最近のクイケンお気に入りの歌手のようで、頻繁に起用しています(後述《魔笛》でも)。
演奏は伴奏ともども爽やかにまとめた一枚ですが、数曲のコンサート・アリアではもっと彫りの深い表現が求められましょう(特にクリストフは浅過ぎ)。とはいえ男声による同種の企画は少ないので、その点では貴重。伴奏は、モーツァルト・オペラにも経験が深いクイケンだけあって、さすがに過不足ないサポート。むしろこちらを聴く音盤かもしれませんね。
それにしても、どうもクイケンはテノールのアリアに思い入れが強いらしく、かつてクリストフ・プレガルディエンと一度モーツァルト・コンサート・アリア集を録音しております(VIRGIN、88)。現在大人気、引っぱりだこのプレガルディエンですが、20年前の当歌唱はナマ硬くいただけません。彼ならばミチ・ガイック指揮、オルフェオ・バロック・オーケストラとの再録音(CPO、01)の方がずっと素晴らしいですね(ちなみにカップリングの交響曲第1番はなかなか刺激的な演奏)。これはお薦め。

VIRGIN盤(88年)

CPO盤(01年)
続いて、クイケン弦楽四重奏団としての演奏を…

■CHALLENGE CLASSICS:SACC72121(2003年)★ *SACD
《レクイエム》 K.626
【弦楽四重奏曲版:リヒテンタール編曲】 クイケン弦楽四重奏団
シギスヴァルト・クイケン(Vn)
フランソワ・フェルナンデス(Vn)
マルレーン・ティエルス(Va)
ヴィーラント・クイケン(Vc)20年ほど前、《レクイエム》(バイヤー版)のライヴ録音(ACCENT、86)で、アーノンクール盤(バイヤー版)とは違った意味で衝撃的な演奏を聴かせてくれたクイケン。多様な補正版によるピリオド楽器演奏の《レクイエム》がまったく珍しくなくなった現在においても、この音盤の価値は減じていません。声高に叫ばない演奏は、冒頭“イントロイトゥス(入祭誦)”におけるバスの深い歩みで一聴明らか。

クイケン指揮による《レクイエム》 (86年)
(バイヤー版)
さて、紹介盤は、元祖モーツァルティアンのひとりペーター・リヒテンタール(1780-1853)による《レクイエム》の“弦楽四重奏編曲版”。医者で役人でもあった彼は、モーツァルトの息子カールと交流があり、モーツァルト音楽の普及に努めたようです。
この編曲版を用いての初録音は、アグライア弦楽四重奏団によるものですが、この盤を皮切りに録音が陸続生まれ、現在つごう4種が知られます。楽曲自身の人気と編曲の妙(巧妙・珍妙の二重の意味で…)とがあいまってのことかと察せられます。
演奏会で全曲取り上げるたぐいの曲ではないと思いますが、今後は弦楽四重奏団の録音レパートリーとして定着するかもしれませんね。あるいはこのまま少人数の弦楽合奏としてもよいと思います。最近、「弦楽のためのアダージョとフーガ」ハ短調 K.546で佳演を聴かせてくれたアンドリュー・マンゼ―イングリッシュ・コンサート(HMF、03)や鈴木秀美―オーケストラ・リベラ・クラシカ(TDK、03)に是非とも演奏してもらいたいですね。
■STRADIVARIUS:STR33470(1997年)
アグライア弦楽四重奏団
*ピリオド楽器による演奏。おそらく同曲の世界初録音。
カップリングはピアノ協奏曲第20番[ピアノ五重奏曲版]。
フォルテ・ピアノは、エンリコ・ガッティとのヴァイオリン・ソナタ集
(ARKANA)で知られるラウラ・アルヴィーニ。
■ORF:CD473(2006年)
ストリングフィッツ
*女性4人によるカルテット。
■ARSIS:Arsis4197(2006年)
アルバーダ弦楽四重奏団
*ピリオド楽器による演奏。亭主は、2006年録音の最新2盤よりも、いまだ初めのアグライア盤をよく聴きますが、クイケン盤の評判が良いようですね。クイケン弦楽四重奏団の《ハイドン・セット》(DENON、90-92)がお好きな向きにはお薦めします。前掲《レクイエム》といっしょにお聴きください。兄弟・夫婦・愛弟子によるクイケン弦楽四重奏団は1986年結成だから、もう活動は20年を越えたのですね…。
■CHALLENGE CLASSICS:SACC72145
(K.581・407:2003年、K.370:2004年) *以下楽曲ごとに★評価、SACD
・クラリネット五重奏曲 K.581
・ホルン五重奏曲 K.407 ★★★
・オーボエ四重奏曲 K.370 ★ ロレンツォ・コッポラ(Cl)
ピエール・イヴ・マデュフ(Hrn)
パトリック・ボージロー(Ob)
クイケン弦楽四重奏団
シギスヴァルト・クイケン(Vn)
フランソワ・フェルナンデス(Vn:K.581、Va:K.407)
マルレーン・ティアース(Va)
ヴィーラント・クイケン(Vc)クイケン弦楽四重奏団に管楽器の名手を迎えての室内楽名曲集。たとえばクラリネットのコッポラは、あのヘープリッチのお弟子さん。活溌なフライブルク・バロック・オーケストラ団員で、以前《グラン・パルティータ》の名演として紹介したアンサンブル・フィリドールのメンバーでもあります。なお、低音部復元譜による演奏。
ということで、かなり期待して購ったのですが、クラリネット五重奏曲については、う〜ん…でした(期待が大きすぎたか)。各楽曲とも亭主イチオシのピリオド楽器演奏盤がありますが、それらを超えるものではありませんでした。しかし、フィリドールのメンバー、マデュフ独奏によるホルン五重奏曲はたいへん素晴らしいです。この演奏には★★★をあげたいですね。ナチュラル・ホルンの奔放な響きが好きな人にはお薦めです。
― つづく ―次回、(その2)では、《魔笛》とこれぞ最新録音のカッサシオンとをご紹介します。
テーマ:クラシック - ジャンル:音楽
- 2008/06/16(月) 16:45:30|
- 指揮者
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