文質彬彬(7) 追補 ピアノ協奏曲第11番 K.413
《室内楽(ピアノ五重奏曲)版》この曲は、第12番・13番とともに管楽器抜きの弦楽四部でも演奏できるように作曲されており、このことは、楽譜購入の予約案内広告が掲載された《ウィーン新聞(ヴィーナー・ツァイトゥング)》(1783年1月15日付)に明記されています。
楽長モーツァルト氏は、この機会に彼の最も高く評価する聴衆の方々に、新たに作曲されたピアノの新作3曲の出版をお知らせいたします。これらは、管楽器を含んだ大編成のオーケストラでも、あるいはクワトロ、つまり弦楽四部でも演奏ができます。4月初めに刊行される作曲者自身監修による良質な浄写譜は、事前予約された方のみが入手可能です。さらに情報を加えれば、3月20日から末日まで、予約券が作曲者のもとで入手でき、料金は4ドゥカーテンです。氏の住所は、クライネ・ゲルバーシュタイン・ハウスのホーヘン・ブリュッケ、No.437の3階です。需要の幅を広げようとしたモーツァルトのもくろみは、どうも当てが外れたようで、結局その年には出版されず、つまり予約は集まらず、アルターリアから初版が刊行されたのは1785年になってからでした。ちなみに4ドゥカーテン(金貨)は20万円ほどの感覚でしょうか。
さて、現在でもこの室内楽版はけっこう演奏(実演はあまり聴いたことがないので、「録音」というべきか)されており、以下、入手可能なあたりをいくつか挙げておきましょう。ただし、前掲したランペ盤のように管楽器を除外しただけの弦楽四部合奏による演奏、というのは稀(唯一?)であって、結局は、「ピアノ+弦楽四重奏=ピアノ五重奏曲」という形式をとるものが多く、これに低音補充のコントラバスを加える場合がある程度ですね(トムズ盤等)。

コラール盤

バーネット盤
■ジャン=フィリップ・コラール盤 [EMI:0946 3 97701 2](1989)
ミュイール弦楽四重奏団*上記は再発売の2枚組で、カップリングは第6番、8番、12〜14番の室内楽版で、最も完備。
■リチャード・バーネット盤 [HÄNSSLER:CD94.011](1996)
フィンチコックス弦楽四重奏団*ピリオド楽器による演奏。カップリングは、第13番とピアノ五重奏曲K.452の弦楽編曲版。

トムズ盤

シャプラン盤
■スーザン・トムズ盤 [HYPERION:CDA67358](2003)★
ゴーディアー・アンサンブル*カップリングは、第12番、13番。
■フランソワ・シャプラン盤 [ARION:ARN68718](2005)
ドビュッシー弦楽四重奏団*カップリングは、第12番と「弦楽のためのアダージョとフーガ」K.546

フィアルコフスカ盤
■ジャニーナ・フィアルコフスカ盤 [ATMA RECORDS:SACD22531](2007)★
チェンバー・プレイヤーズ・オブ・カナダ*カップリングは、第12番と(なぜか)《ミラノ四重奏曲》からK.157。
こうしたクワトロ版は、もともとモーツァルト自身が想定していた響きでもあるので、オーケストラ版と比べてもさほど遜色なく楽しめます。むしろ第11番あたりは、弦とのバランスがとりやすいのか、オーケストラ版で多発していた駄演はないといってよいでしょう。そのかわり、こぢんまりとまとまってしまった演奏が多いことも確かですが…。いずれにせよ、亭主個人としては、以前申したようにモーツァルトはBGMに向きませんが、もしそういう聞き方で選ぶとしたら、このヴァージョンはぜったいお薦めです。
コラール盤は、管楽器の比重が大きくない他のナンバー第6・8・14番にも対象を広げており貴重ですが、演奏は小さくまとまり過ぎかな。録音もかなりレンジの狭い独特のものです。
バーネット盤は、今のところ唯一と思われるピリオド楽器によるクワトロ演奏。使用楽器は明記されていませんが、おそらくバーネット所有の1798年製ローゼンベルガーではないでしょうか。バーネットは、ピリオド系鍵盤楽器コレクターとしても有名ですね。
トムズ盤は、オリジナルどおりの3曲を好演。ゴーディアー・アンサンブルは、コントラバスが加わっています。トムズはその後、フロレスタン・トリオとしてピアノ三重奏曲全集も完成させております(05・06、HYPERION)。3曲揃っていますし、演奏も佳いので推薦盤としておきます。
後2者は、他に比して表情付けが少々濃い演奏。シャプラン盤は、購入時一聴して放り出したのですが、この頃聴き直して、そのヤワヤワした他盤よりも甘い演奏も悪くないか、と思っています。
最新のフィアルコフスカ盤は佳演(コントラバス入り)。第11番に関しては亭主一番の推薦盤でしょう。残念なのは第13番が収録されていないことで、何故か《ミラノ弦楽四重奏曲》からK.157がカップリングされております。
モーツァルトの楽しみ方のひとつとして、このような異版や異稿、編曲、補作、改作(他の作曲家による)を聴き比べるというのがあります。今後、当亭でも取り上げる機会をつくりたいと思います。何かリクエストがあればお寄せください。
テーマ:クラシック - ジャンル:音楽
- 2008/05/24(土) 09:12:31|
- 室内楽曲
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