文質彬彬(6) セレナード第10番《グラン・パルティータ》
変ロ長調 K.361銀蛇亭主の推薦盤を紹介するコーナー“文質彬彬”。基本的にモーツァルトの1楽曲に対して、お薦めの音盤を複数掲げるわけですが、毎回どの曲を取り上げるか、とても迷います。ところが、愚亭にも有り難いことにぼちぼちリクエストをいただいてはおりまして、今回はテレビ放送をキッカケに…
過日(4.20)、《N響アワー》でベルリン・フィルの名オーボエ奏者(1980〜2001在任、それ以前はケルン放送響)、ハンスイェルク・シェレンベルガー(1948-)が指揮(交響曲第40番)とともに《グラン・パルティータ》の演奏を披露していました。亭主もちょうど視聴しており、久々に同曲を聴き返したくなったところでした。
なんと番組では、第1・3・7楽章のみの抜粋放送でして、かえって欲求不満に陥り、すぐさま棚から音盤をあさって聴き始めたのであります(深夜におよぶまで3種のCDを立て続けに…)。
実を申しますと、モーツァルティアンとしてお恥ずかしい限りなのですが、この曲、あんまり好きじゃなかったんです…。いくつもある管楽器セレナード類(ハルモニー)を“真剣に”聴くようになったのは、そう、ここ数年来のことですかねえ。今ではどっかりと亭主愛聴レパートリーに据わっております。それでもこの曲の最終楽章ロンドは、もう少し重厚でもよかったかと…。前6楽章を受けるには、あまりにも屈託がなく、シンプルでは。まあ、そこがモーツァルトらしいところなんですがね。
映画《アマデウス》で使われた第3楽章アダージョはもちろん絶品、第1楽章の序奏もすてきですが、トリオを2つ伴う第2・4楽章の両メヌエットがたいへん緻密にできていますね。奏者が最も気をつかう楽章だと思います。基本情報は以下のとおり…
セレナード第10番 変ロ長調 K.361(370a) 〈全7楽章〉
作曲:1783〜1784年頃?、ウィーン
編成:オーボエ2、クラリネット2、バセット・ホルン2、
ホルン4、ファゴット2、コントラバス(またはコントラファゴット)
通称:《グラン・パルティータ》。モーツァルトの死後、何者かにより自筆譜に記入。さて、亭主架蔵音盤も25種はあろうかと思いますが、何といってもこういった管楽器主役の曲では、ピリオド楽器の音色の魅力満開となりますよね。以下、音盤を挙げます。やはりピリオド楽器による演奏が大健闘しております。
※印=ピリオド楽器による演奏
ピリオド楽器数種[プラハにて亭主撮影]
奥はバロック・ハープ。ガラスケース内は(見にくいですが)、
左からバセット・ホルン、オーボエ、クラリネット、ファゴット
手前はマンドリン。《ドン・ジョヴァンニ》で効果的に使われますね。
さすがはプラハ!
なお、ピアノ五重奏曲版、管弦楽版、弦楽四重奏曲版などの編曲物が多いこの曲ですが、今回は紹介を見送りましょう。

フルトヴェングラー盤

WP木管グループ盤
■ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団員(1947)▲
[OTAKEN:KC305]*EMI原盤よりも、上記オタケン・レコードによるSP盤(独ELECTROLA)からの復刻が最高! カップリングは有名な演奏、交響曲第40番(1948・49)だが、これまた上記盤が最高の音質。
■ウィーン・フィルハーモニー木管グループ(1953)
[UC:UCCW3051]*ウェストミンスター・レーベル往年の名盤。クラリネットはレオポルト・ウラッハ!

アーノンクール盤

クイケン盤
■ニコラウス・アーノンクール指揮、ウィーン・モーツァルト管楽合奏団(1983)▲
[TELDEC:8.42981ZK]*ファゴットはミラン・トルコヴィチ。アーノンクールとのコンチェルト録音あり。
■バルトルト・クイケン指揮、オクトフォロス(1986)※
[ACCENT:ACC30042]*上記盤は、管楽ディヴェルティメントK.213・240・252・253・270・289と組み合わされた再発売の2枚組。
■クリストファー・ホグウッド指揮、アマデウス管楽合奏団(1987)※
[L’OISEAU-LYRE:421 437-2]*ナチュラル・ホルンはロウエル・グーリア。彼のコンチェルトは絶品。
■フランス・ブリュッヘン指揮、18世紀オーケストラ団員(1988)※
[PHILIPS:422 338-2]*ホープリッチ(cl)、コスター(hrn)、ボンド(fg)等の名手が勢揃い。同時の映像盤(PHILIPS)あり! 各々コンチェルト演奏でも活躍。
■アルビオン・アンサンブル(1988)※
[HYPERION:CDH55093]*クラリネットはコリン・ローソン。
■ザビーネ・マイヤー管楽合奏団(1991)
[EMI:7243 5 67645 2 1]*コントラバスではなく、コントラファゴットによる演奏。
■フィリップ・ヘルヴェッヘ指揮、シャンゼリゼ管弦楽団員(1995)※ ★
[HMF:901570]*カップリングは《ナハトムジーク》K.388

ヘルヴェッヘ盤

ブリュッヘン新盤
■アンサンブル・ゼフィーロ(1996) ★※
[AUVIDIS:E8605]*カップリングはディヴェルティメントK.166
■フランス・ブリュッヘン指揮、ドイツ室内管弦楽団(1997) ★
[IPPNW:CD20]*カップリングは同日ライヴの交響曲第25番!

フィリドール盤

ナハトムジーク盤
■アンサンブル・フィリドール(2001)※ ★
[CALLIOPE:CAL3317]*1992年結成の団体。
■ナハトムジーク(2001)※ ★♪
[GLOSSA:GCD920605]*リーダーはクラリネットのエリック・ヘープリッチ。
■ユッカ・ラウタサロ指揮、六階管弦楽団(2004)※
[ALBA:ABCD219]*Kuudennen kerroksen orkesteri(六階管弦楽団)は、リハーサル教室にちなんで命名。シベリウス・アカデミーのピリオド楽器奏者たち。

六階管盤

フルトヴェングラー(EMI)盤
フルトヴェングラー盤は、同曲の歴史的録音として挙げました。マスター・テープをいじくりまわして貧音化させたEMI正規盤(右上)ではなく、是非前掲、日本でのSP復刻盤で聴きましょう。大きな針音の中から生々しい音(唸り声、靴音までも…)が立ち昇ります。
モダン楽器を用いてのアーノンクール盤はのっけからニコラウス節炸裂です。80年代初頭の彼はツッパッておりました。30年を経たウィーンの奏者たちの違いを、ウィーン・フィルハーモニー木管グループ盤とで聴き比べてみましょう。この両方が楽しめないとモーツァルティアンではありません。
ブリュッヘン旧盤は、ほぼ同時収録の映像が必見。指揮姿はともかく、バセット・ホルンなどの古楽器が映像で堪能できるのはありがたいですね。演奏としては、モダン楽器によるブリュッヘン新盤ライヴの方がお薦め。考え抜かれた演奏で、時にくどかった旧盤に相違して、モダン楽器の特性を活かしたテンポ感のある快演(同日演奏された交響曲第25番も佳演)。
評判の好いザビーネ・マイヤー盤は、演奏はまったく不出来なのですが、コントラバスの代わりにコントラファゴットが使われており、今となっては珍盤。まさしく、間違った通称《13管楽器のためのセレナード》を再現。
クイケン盤、アルビオン盤、ゼフィーロ盤、フィリドール盤などそれぞれにピリオド楽器の個性を楽しませてくれますが、やはりヘルヴェッヘ盤とナハトムジーク盤とが必聴でしょう。バックグラウンドに広がるナチュラル・ホルンの粗野な響きが魅力(ひとによっては受けつけないかも…)の前者は、ヘルヴェッヘとしては上出来。奔放な響きでは、ゼフィーロ盤も佳演。
さらに佳いのが後者、ヘープリッチ(ホープリッチとも)率いるナハトムジークによる演奏。ヘルヴェッヘ盤と違い、ナチュラル・ホルンの響きは極力抑えられていて、木管の味わいが全面に出た緻密な演奏。
当盤には、知る人ぞ知る珠玉の小品、2本のクラリネットと3本のバセット・ホルンのためのアダージョ K.411、1本のクラリネットと3本のバセット・ホルンのためのアダージョ K.580aがカップリングされているのもうれしいですね。なかんずく来日公演でも披露された前者は、同曲録音中のベスト!
そういえば、今回選曲のきっかけとなったシェレンベルガーの演奏は…?
あります、あります。1989年録音のBlaser Der BPO(ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団管楽アンサンブル)盤が出ております(ORFEO:C188 891 A)。とても立派な演奏です。しかし、亭主にはあまりに上手すぎて…。やはり木管セレナード・ディヴェルティメント類には鄙びた味わいを忘れたくはないのです。
テーマ:クラシック - ジャンル:音楽
- 2008/04/26(土) 19:51:09|
- 管弦楽曲
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