文質彬彬(6) セレナード第10番《グラン・パルティータ》
変ロ長調 K.361銀蛇亭主の推薦盤を紹介するコーナー“文質彬彬”。基本的にモーツァルトの1楽曲に対して、お薦めの音盤を複数掲げるわけですが、毎回どの曲を取り上げるか、とても迷います。ところが、愚亭にも有り難いことにぼちぼちリクエストをいただいてはおりまして、今回はテレビ放送をキッカケに…
過日(4.20)、《N響アワー》でベルリン・フィルの名オーボエ奏者(1980〜2001在任、それ以前はケルン放送響)、ハンスイェルク・シェレンベルガー(1948-)が指揮(交響曲第40番)とともに《グラン・パルティータ》の演奏を披露していました。亭主もちょうど視聴しており、久々に同曲を聴き返したくなったところでした。
なんと番組では、第1・3・7楽章のみの抜粋放送でして、かえって欲求不満に陥り、すぐさま棚から音盤をあさって聴き始めたのであります(深夜におよぶまで3種のCDを立て続けに…)。
実を申しますと、モーツァルティアンとしてお恥ずかしい限りなのですが、この曲、あんまり好きじゃなかったんです…。いくつもある管楽器セレナード類(ハルモニー)を“真剣に”聴くようになったのは、そう、ここ数年来のことですかねえ。今ではどっかりと亭主愛聴レパートリーに据わっております。それでもこの曲の最終楽章ロンドは、もう少し重厚でもよかったかと…。前6楽章を受けるには、あまりにも屈託がなく、シンプルでは。まあ、そこがモーツァルトらしいところなんですがね。
映画《アマデウス》で使われた第3楽章アダージョはもちろん絶品、第1楽章の序奏もすてきですが、トリオを2つ伴う第2・4楽章の両メヌエットがたいへん緻密にできていますね。奏者が最も気をつかう楽章だと思います。基本情報は以下のとおり…
セレナード第10番 変ロ長調 K.361(370a) 〈全7楽章〉
作曲:1783〜1784年頃?、ウィーン
編成:オーボエ2、クラリネット2、バセット・ホルン2、
ホルン4、ファゴット2、コントラバス(またはコントラファゴット)
通称:《グラン・パルティータ》。モーツァルトの死後、何者かにより自筆譜に記入。さて、亭主架蔵音盤も25種はあろうかと思いますが、何といってもこういった管楽器主役の曲では、ピリオド楽器の音色の魅力満開となりますよね。以下、音盤を挙げます。やはりピリオド楽器による演奏が大健闘しております。
※印=ピリオド楽器による演奏
ピリオド楽器数種[プラハにて亭主撮影]
奥はバロック・ハープ。ガラスケース内は(見にくいですが)、
左からバセット・ホルン、オーボエ、クラリネット、ファゴット
手前はマンドリン。《ドン・ジョヴァンニ》で効果的に使われますね。
さすがはプラハ!
なお、ピアノ五重奏曲版、管弦楽版、弦楽四重奏曲版などの編曲物が多いこの曲ですが、今回は紹介を見送りましょう。

フルトヴェングラー盤

WP木管グループ盤
■ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団員(1947)▲
[OTAKEN:KC305]*EMI原盤よりも、上記オタケン・レコードによるSP盤(独ELECTROLA)からの復刻が最高! カップリングは有名な演奏、交響曲第40番(1948・49)だが、これまた上記盤が最高の音質。
■ウィーン・フィルハーモニー木管グループ(1953)
[UC:UCCW3051]*ウェストミンスター・レーベル往年の名盤。クラリネットはレオポルト・ウラッハ!

アーノンクール盤

クイケン盤
■ニコラウス・アーノンクール指揮、ウィーン・モーツァルト管楽合奏団(1983)▲
[TELDEC:8.42981ZK]*ファゴットはミラン・トルコヴィチ。アーノンクールとのコンチェルト録音あり。
■バルトルト・クイケン指揮、オクトフォロス(1986)※
[ACCENT:ACC30042]*上記盤は、管楽ディヴェルティメントK.213・240・252・253・270・289と組み合わされた再発売の2枚組。
■クリストファー・ホグウッド指揮、アマデウス管楽合奏団(1987)※
[L’OISEAU-LYRE:421 437-2]*ナチュラル・ホルンはロウエル・グーリア。彼のコンチェルトは絶品。
■フランス・ブリュッヘン指揮、18世紀オーケストラ団員(1988)※
[PHILIPS:422 338-2]*ホープリッチ(cl)、コスター(hrn)、ボンド(fg)等の名手が勢揃い。同時の映像盤(PHILIPS)あり! 各々コンチェルト演奏でも活躍。
■アルビオン・アンサンブル(1988)※
[HYPERION:CDH55093]*クラリネットはコリン・ローソン。
■ザビーネ・マイヤー管楽合奏団(1991)
[EMI:7243 5 67645 2 1]*コントラバスではなく、コントラファゴットによる演奏。
■フィリップ・ヘルヴェッヘ指揮、シャンゼリゼ管弦楽団員(1995)※ ★
[HMF:901570]*カップリングは《ナハトムジーク》K.388

ヘルヴェッヘ盤

ブリュッヘン新盤
■アンサンブル・ゼフィーロ(1996) ★※
[AUVIDIS:E8605]*カップリングはディヴェルティメントK.166
■フランス・ブリュッヘン指揮、ドイツ室内管弦楽団(1997) ★
[IPPNW:CD20]*カップリングは同日ライヴの交響曲第25番!

フィリドール盤

ナハトムジーク盤
■アンサンブル・フィリドール(2001)※ ★
[CALLIOPE:CAL3317]*1992年結成の団体。
■ナハトムジーク(2001)※ ★♪
[GLOSSA:GCD920605]*リーダーはクラリネットのエリック・ヘープリッチ。
■ユッカ・ラウタサロ指揮、六階管弦楽団(2004)※
[ALBA:ABCD219]*Kuudennen kerroksen orkesteri(六階管弦楽団)は、リハーサル教室にちなんで命名。シベリウス・アカデミーのピリオド楽器奏者たち。

六階管盤

フルトヴェングラー(EMI)盤
フルトヴェングラー盤は、同曲の歴史的録音として挙げました。マスター・テープをいじくりまわして貧音化させたEMI正規盤(右上)ではなく、是非前掲、日本でのSP復刻盤で聴きましょう。大きな針音の中から生々しい音(唸り声、靴音までも…)が立ち昇ります。
モダン楽器を用いてのアーノンクール盤はのっけからニコラウス節炸裂です。80年代初頭の彼はツッパッておりました。30年を経たウィーンの奏者たちの違いを、ウィーン・フィルハーモニー木管グループ盤とで聴き比べてみましょう。この両方が楽しめないとモーツァルティアンではありません。
ブリュッヘン旧盤は、ほぼ同時収録の映像が必見。指揮姿はともかく、バセット・ホルンなどの古楽器が映像で堪能できるのはありがたいですね。演奏としては、モダン楽器によるブリュッヘン新盤ライヴの方がお薦め。考え抜かれた演奏で、時にくどかった旧盤に相違して、モダン楽器の特性を活かしたテンポ感のある快演(同日演奏された交響曲第25番も佳演)。
評判の好いザビーネ・マイヤー盤は、演奏はまったく不出来なのですが、コントラバスの代わりにコントラファゴットが使われており、今となっては珍盤。まさしく、間違った通称《13管楽器のためのセレナード》を再現。
クイケン盤、アルビオン盤、ゼフィーロ盤、フィリドール盤などそれぞれにピリオド楽器の個性を楽しませてくれますが、やはりヘルヴェッヘ盤とナハトムジーク盤とが必聴でしょう。バックグラウンドに広がるナチュラル・ホルンの粗野な響きが魅力(ひとによっては受けつけないかも…)の前者は、ヘルヴェッヘとしては上出来。奔放な響きでは、ゼフィーロ盤も佳演。
さらに佳いのが後者、ヘープリッチ(ホープリッチとも)率いるナハトムジークによる演奏。ヘルヴェッヘ盤と違い、ナチュラル・ホルンの響きは極力抑えられていて、木管の味わいが全面に出た緻密な演奏。
当盤には、知る人ぞ知る珠玉の小品、2本のクラリネットと3本のバセット・ホルンのためのアダージョ K.411、1本のクラリネットと3本のバセット・ホルンのためのアダージョ K.580aがカップリングされているのもうれしいですね。なかんずく来日公演でも披露された前者は、同曲録音中のベスト!
そういえば、今回選曲のきっかけとなったシェレンベルガーの演奏は…?
あります、あります。1989年録音のBlaser Der BPO(ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団管楽アンサンブル)盤が出ております(ORFEO:C188 891 A)。とても立派な演奏です。しかし、亭主にはあまりに上手すぎて…。やはり木管セレナード・ディヴェルティメント類には鄙びた味わいを忘れたくはないのです。
テーマ:クラシック - ジャンル:音楽
- 2008/04/26(土) 19:51:09|
- 管弦楽曲
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文質彬彬(5) 《ロンドン・スケッチブック》 K.15a〜15ss新年度というのはせわしないもの。連休前に一仕事片付けたいとは思うものの、お花は咲くは、緑は輝くは……で、艸木好きの亭主は当然うわの空ということにあいなります。
仕事場の窓から萌葱や橙桃を点描した春霞を眺めますと、「世の中に絶えてお花のなかりせば…」などと古人よろしく半実仮想を口ずさみ、お茶ばかりすすることに。景色と反比例して心中は長閑でないものです。

夕暮れ、仕事場の窓から…
のどかな景色ですね

裏山のカタクリの花
仕事をテキパキとこなしたいとき、亭主はモーツァルトをめったに流しません。世間一般に相違して、亭主にとってモーツァルトはBGMにはトンと向かないのであります。聴き入ってしまうわけですね。亭主は車に乗りませんが、もし運転することがあっても、モーツァルトは車中流せないと思います。きわめて危険です。
そんな中でも、たまさかテンポよく仕事をしたいときにかけるのが、この最初期作品《ロンドン・スケッチブック》なのですよ。
《ロンドン・スケッチブック》は、1764年のロンドン旅行中に書き散らされた、モーツァルト8歳時(!)の草稿集。前半第27曲までは鉛筆書きで、ロンド、ジーク、メヌエット、アルマンド、コントルダンスといった舞曲も含みます。現在は鍵盤楽器で演奏されることが多いのですが、オーケストラ演奏を想定していたスケッチもあるようです。
少年モーツァルトが楽器も用いず、楽想のおもむくままに筆をはしらせた小品群(各曲数十秒〜数分)ですので、本来は連続して演奏し、鑑賞する、といったたぐいの楽曲ではないわけです。音楽学者でもあるエリック・スミス(かの名匠シュミット=イッセルシュテットの息子ですね)がわざわざディヴェルティメントに編成し直して、さらにオーケストレーションを施して、何とか鑑賞に耐えるように、と世話を焼いたゆえんであります。
しかし、この脈絡もなく短篇が繰り出されるところこそが亭主のお気に入りなのであって、さほど楽曲に注意がむかず、心地よいリズムのなか仕事がはかどる、という具合なのですな。
それでも、曲が進んでK.15tやK.15vなんていうスゴイのに差しかかると、やっぱり数分間の中断を余儀なくされることになります…。
さて、少年期のスケッチ集にも音盤はありまして、以下、演奏楽器ごとに分類して紹介することといたしましょう。

アウエルバッハ盤

クローエルス盤
モダン・ピアノ■ワルター・クリーン盤(1964)
[MUSICAL CONCEPTS:MC131] *6曲のみ。「変奏曲・小品集」(3枚組)に収録。
■レーラ・アウエルバッハ盤(1998)★
[ARABESQUE:Z6795] *前半に「ナンネル練習帳」所収の初期作品群併録。
■ハンス=ウード・クローエルス盤(2001)
[NAXOS:8.554769] *断片曲を補作収録。
■マルティノ・ティリモ盤(2006)★
[REGIS:RRC1257] *ソナタ集・変奏曲集・小品集も完成させている。
クリーン盤は、6曲なのが惜しいです。クローエルス盤は、一番入手しやすく、またK.15rrとK.15ssという断片で残されてほとんど演奏されることのない2曲を、自身で編曲して収録した点は貴重なんですが、肝腎の演奏がいただけません。
一番のお薦めは、アウエルバッハ盤。彼女(1973年ロシア生)は、アメリカ在住のピアニストで、詩人・作家・作曲家でもあるそうです。2004年ノーベル文学賞にノミネートされたとか。
上述したように、この楽曲群は組曲ではなく、また当然そのまま演奏されることが意図されたものでもないので、普通に順次演奏すると、雑多な形式の小品が無機的に繰り出されるだけなのですが、彼女は強弱やちょっとした装飾・アゴーギグをつけて変化をつくっています。しかし、その表情付けがあまりイヤらしくないので、耳に心地よい流れが持続します。
もうひとつの推薦盤が、ティリモ盤です。最新の『ピアノ&ピアニスト2008』(音楽之友社)にもその名を見出せないので、日本では無名に近いのかもしれませんが、かなり以前から活動しているキプロス生まれの渋いピアニストです。既にEMI等にシューベルトのソナタ全集やドビュッシー、ヤナーチェクの全集を入れています。最近、独Regisレーベルにモーツァルトのソナタや変奏曲を含む鍵盤楽器作品全集(ソナタ集:RRC5003、変奏曲・小品集:RRC7002)を完成させたばかりで、紹介盤もその一枚となります。
非常な廉価盤なのですが、いずれも演奏は一級品です。けっして才気ほとばしる、といった派手な演奏ではありませんが、じわじわ響く佳演ですよ。プラハ室内管と協奏曲も録音を始めたようです(現在1枚所持)。

ティリモ盤

オールト盤
フォルテ・ピアノ■バルト・フォン・オールト盤(2005)★
[BRILLIANT:93025] *「モーツァルト・鍵盤楽器作品全集」(14枚組)中の1枚。価格は6〜7千円程度。
フォルテ・ピアノによる演奏で、ほぼ全曲演奏しているのは当盤だけでしょう。オールトは、マルコム・ビルソンに学んだ俊英。短期間で仕上げた上記「全集」は、ときにムラはあるものの、珍曲も含んでいてまさに驚異的(お値段も!)。4手ソナタや変奏曲には難があるものの、《ロンドン・スケッチブック》はなかなかによく、万人向けではありませんが、フォルテ・ピアノ好き、モーツァルティアンは必携の全集でしょう。
チェンバロ■エリック・スミス盤(1976)
[PHILIPS:PHCP3594] *「初期チェンバロ曲集」所収。スミスによるディヴェルティメント編成版。
自身で編曲して、自身で演奏して、自身でプロデュースしているのだから、エリック・スミスってほんとうに幸せなモーツァルティアンですよね。今となってはチェンバロで弾いているだけ、といった感は否めませんが、モーツァルトへの愛は伝わってきます。
小林道夫盤(SONY)が廃盤の現在、唯一のチェンバロによる演奏として価値はあります。音楽修辞学を能くする優れたチェンバロ奏者による録音を望みたいものです。トン・コープマンが演奏したら、間違いなく装飾過多のマニエリスティックなものになるでしょうね(PHILIPSのモーツァルト大全集所収の初期鍵盤楽器作品集に片鱗あり)。
クラヴィコード■ジークベルト・ランペ盤(2004〜)▲
[MD+G:MDG341 1301-2]他 *「モーツァルト・鍵盤楽器作品全集」は現在第7集まで発売済。第3・5集を除き、ロンドン・スケッチブックからの数曲が含まれる。
モーツァルトが大好きだった楽器、しかし渋すぎる楽器、クラヴィコードによる演奏が鬼才ランペによって陸続生まれています。フォルテ・ピアノ、チェンバロ、クラヴィコードを使い分けての上記全集が進行中なのです。
最近、クリストファー・ホグウッドが3台のクラヴィコードを用いてモーツァルト作品集「the secret Mozart」を出しましたが(DHM:82876 83288 2)、かのフリードリヒ・グルダがすっかり心酔した楽器とはいえ、ほんとうに通な音色ですよね。亭主まだまだ修行が足りません…。

プラハのベルトラムカ荘にあったクラヴィコード。
モーツァルトが弾いたもの…(ではないと思うが)
オルガン■ベルンハルト・グフレラー盤(1990)▲
[EMI:CDC7 54146 2] 収録曲:K.15ll、15r、15o *ザルツブルクのフランツィスカーナー教会のオルガン使用。
■リウウェ・タミンガ盤(2005)
[ACCENT:ACC24172] 収録曲:K.15a、15h、15b *ボローニャのサン・ドメニコ教会のオルガン使用。
オルガンによる全曲演奏は残念ながらないようです。上記盤は3曲ずつの抄録ですが、優れた演奏です。オルガンお得意のレジスター(音栓)による音色変化を活かした全曲盤があれば楽しいと思いますね。

スミス盤

マリナー盤
オーケストラ■ネヴィル・マリナー盤(1971)▲
[PHILIPS:422 545-2] *エリック・スミス編曲。COMPLETE MOZART EDITION Vol.45“RARITIES & SURPRISES”所収。かつて国内盤単売あり。スミスによるディヴェルティメント編成版をオーケストラ版に編曲。
既述のスミスが、組曲に適宜編成し、オーケストレーションを施した演奏。《ロンドン・スケッチブック》が飽くまで草稿であり、当然オーケストラを想定した曲もあるのだろうから、あながちフィクションともいえない試みでしょう。実際、遜色ないオーケストラ作品に仕上がっており、こういった曲に才を示すマリナーがうまくまとめております。
この《ロンドン・スケッチブック》は、小品群とはいいながらも曲数は多いので、すべて聴くには70分ほど要します。これがまた、飽きっぽい亭主が集中して仕事ができる頃合いと一致しておりまして、楽曲終了とともに一区切り、お茶の合図となります。
モーツァルトも、おのが少年期のスケッチが、こんなふうに使われているとは心外でしょうけれどもね…
テーマ:クラシック - ジャンル:音楽
- 2008/04/22(火) 21:08:44|
- 器楽曲
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ネパールのモーツァルト妙なお題で失礼します。
『チベットのモーツァルト』(中沢新一、講談社学術文庫)ってぇのは聞いたことがあるけど、ネパールとは面妖な……といぶかる御仁も多かろうとお察し申し上げます。
道頓堀でト短調シンフォニーが頭の中で鳴り出した小林秀雄よろしく、亭主も別にネパールで神秘的なモーツァルト体験をした、なぞと言いだすわけではありませぬ。
今日はちょこっと、ネパールからモーツァルトの音盤が届いたことをお話しします(正確には通なお店に輸入してもらった)。以下の2種であります…
*ジャケット不敢掲載■KARNA:KA202M(2枚組限定盤) *世界初出
ディヴェルティメント K.136
交響曲第40番 K.550
交響曲第41番 K.551
リッカルド・ムーティ指揮 バイエルン放送交響楽団
2006年3月31日ライヴ、ミュンヘン(ガスタイク)
■KARNA:KA375M(限定盤) *世界初出
交響曲第25番 K.183
交響曲第40番 K.550
サイモン・ラトル指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
2006年9月1日ライヴ(「プロムス2006」)、ロンドン(ロイヤル・アルバート・ホール)うーん、スゴイ。現在、爆弾事件や選挙争乱で渡航注意となっているネパールでこんな公演していましたか…そんなはずはありませんね。上掲データにあるように、ミュンヘンとロンドンでの2006年ライヴです。
これを発売したKARNAレーベルは、ネパールの会社。去年4月に休業したそうです。きわめて簡素なジャケット(もちろん解説等はなし)には Made in Nepal とありますが、リマスタリングはドイツでおこなっているとのこと…わからんなあ〜。ちなみにCD-Rです。
もちろん正規代理店はなく、“貝族蛮”なんでしょうけれど、ネパール産っていうところがしゃれていますね。けっこうすごいアイテムが揃っていますが、亭主は上掲2種のモーツァルトを手に入れてみました。さて、肝腎の演奏は…
ムーティはこの組み合わせが気に入っているようで、1991年モーツァルト没後200年ザルツブルク音楽祭でもウィーン・フィルとこれでオープニングを飾っていますよね(7月28日、ザルツブルク祝祭大劇場。映像あり、PHILIPS)。今回の音盤は、その15年後、バイエルン放送響とのもの。
まずはK.136のディヴェルティメント。昨今、この曲を大編成のオケで堂々と演奏する勇気のある指揮者はみかけなくなりました。もちろん古楽器演奏が盛んとなった結果であり、特にこのような曲の場合、大交響楽団としては、極端に奏者数を刈り込む(臨時室内管弦楽団化)、ピリオド奏法を取り入れる(古楽系指揮者の招聘)、そもそも演奏会に取り上げない(レパートリーから外す)…等々の対策を施さないと、いまどき何やってんだっ! とのお叱りを受けること必至です。
実際、このところK.136を含むディヴェルティメント・セレナード類については、ピリオド楽器によるすばらしい録音が次々発売されています。棚を見回しても…
フライブルグ・バロック・オーケストラ(HMF)
イングリッシュ・コンサート(HMF)
ル・コンセール・デ・ナシオン(ALIA VOX)
アンサンブル・ゼフィロ(DHM)
アンサンブル415(ZIGZAG)
レ・フォリー・フランセーズ(ALPHA)
オーケストラ・リベラ・クラシカ(TDK)
ラ・プティット・バンド(ACCENT)
ラ・グランド・エキュリ・エ・ラ・シャンブル・デュ・ロワ(K617)等々ここ数年発売の盤がひしめいております(いずれ紹介したい盤ばかり)。
これらの演奏を聴いた後では、近代の肥大化した大オーケストラの分厚い響きでディヴェルティメントを聴くのは、正直しんどいですし、演奏する方だってアナクロだなあ、と思うことでしょうよ。
そんな風潮のなか、ムーティは多少奏者を減らしても交響楽団の響きを保ちつつ、十分に訓練したオケに躍動感ある解釈を与え、グイグイひっぱってゆきます。もっちゃり、ぶよぶよといったメタボなところは微塵もありません。肥満なのではなく“豊饒”なのですね。これにはバイエルン放送響の弦の美しさもおおいに寄与しています。このスタイルの演奏で弦が下手では聴くに堪えませんよ。
ちまたでは、ムーティのモーツァルトは伝統的スタイルとされているようですが、私見ではかなりピリオド奏法を意識はしていると思います。しかし、「意識している」と「実行する」というのは別でして、ムーティは前者。「意識」というのは、たとえば40番のシンフォニーを聴くと弦と管、フォルテとピアノのバランスに細心の注意が払われていることがわかりますね。
40番、終楽章の最後、294小節と298小節目に現れる木管の上昇音型を浮き立たせるために、わざと弦を急激にディミヌエンドさせるところなぞは、ちょっとクサイけれども、実演ではかなり効果的なんじゃないかなあ。ちなみに展開部以降リピートあり。
なお、第1楽章で第1ヴァイオリンのひとりが大きくミスしているのがご愛嬌。細かくいえば、提示部リピートの際、80小節目の後に88小節目の音型を弾き始めてしまいます。おそらく80小節目と同じ音型が現れる87小節目と勘違いしての勇み足なのでしょうね。それでも下手にいじくりまわさない録音の生々しさともあいまって、一連の演奏に亭主感服いたしました。
モーツァルト演奏において全盛のピリオド奏法ですが、モダン・オケに安易には取り入れない態度、かといって旧態然としたルーティンのモーツァルト演奏もしないムーティの姿勢に好感がもてました。
同世代にバレンボイム(1942-)がいますが、実は両人ともに亭主の興味外にある演奏家でした。バレンボイムのピアノはまったくよいと思いませんし、指揮もまったく関心を呼び起こしませんが、ムーティは今おもしろい、と感じています。モーツァルトにあってはウィーン・フィルよりもバイエルン放送響の方が、ムーティとは相性よいかも。
若い若いと思っていたムーティ(1941-)も、この演奏時すでに65歳! 現在古稀をひかえた彼に、もう少しモーツァルトを演奏してもらいたい、と亭主は願っています(バイエルン放送響との《プラハ》が聴きたいなあ)。
ちなみにムーティの40番にはこれと既述PHILIPS盤(ライヴ、スタジオ両盤あり)の他に、ウィーン・フィル自主制作による以下の音盤がありますが、バイエルン盤にはおよびません(録音こもり気味)。

自主制作盤

上述DVD盤
■ウィーン・フィル自主制作盤:WPH-L-K-2006
モーツァルト:交響曲第40番 K.550
プロコフィエフ:古典交響曲 Op.25
シューベルト:交響曲第6番 D589
リッカルド・ムーティ指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
2000年4月2日(ライヴ)、ウィーン(ムジークフェラインザール)お次はラトル。ト短調シンフォニーは重なっていますね。
ラトル(1955-)のモーツァルトといえば、古楽器団体エイジ・オブ・インライトゥンメント・オーケストラとの《コシ・ファン・トゥッテ》(95年ライヴ、EMI)があるくらいでしょうが、実演ではけっこう振っているんですよね。一般にはピリオド奏法にも造詣が深い、といわれているようです。
当盤は、ロンドン夏の音楽祭“プロムス”のライヴ。生誕250年を記念したもので、手兵ベルリン・フィルを率いての大小ト短調シンフォニー。当然ながら(?)、テンポ設定も含めてピリオド奏法を存分に取り入れた演奏です。
全体的に軽薄な演奏でした(特に40番)。新奇な手管をちょこちょこ繰り出すのですが、説得力は弱いですね。それでも25番は下手な小細工がさほど耳につかず、特に第1・2楽章はよいと思いました。
第3楽章トリオ部で、オーボエがきわめてセンスのないアドリブをこれでもかとばかり入れ始めたのにはさすがゲンナリしました…(でも、実は指揮者の指示・許可ではなく、当日突然に興がのっちゃった、ラトルもビックリっ、ていうのならベルリン・フィルもたいしたもんだが)。
こういった演奏、一昔前の亭主であったら快哉を叫んでいたかもしれません。実演で聴けばもっと好印象をもつかなあ、…ロンドンっ子は拍手喝采でした。
ところは違えど同じ2006年アニヴァーサリー、いずれもドイツの名門モダン・オーケストラでモーツァルトを指揮した人気のマエストロふたり。しかし、結果は好対照でした。
【追 補】 (4.24)
ラトルのモーツァルトには、最近以下の音盤がありましたね。亭主も架蔵しておりましたが、すっかり失念しておりました。
■コジェナー:モーツァルト・アリア集 [ARCHIV:UCCA1068]
歌劇《フィガロの結婚》〜スザンナ、ケルビーノのアリア
コンサート・アリア「どうしてあなたが忘れられましょう」 K.505
歌劇《コシ・ファン・トゥッテ》〜デスピーナ、フィオルディリージ、ドラベッラのアリア
歌劇《皇帝ティトゥスの慈悲》〜ヴィッテリアのアリア
歌劇《クレタの王イドメネオ》〜イリアのアリア
コンサート・アリア「私は行く、しかしどこへ」 K.583
歌劇《フィガロの結婚》〜ケルビーノのアリア
コンサート・アリア「大いなる魂と高貴なる心」 K.578
歌劇《フィガロの結婚》〜スザンナのアリア[差し替え稿第28曲a]
サイモン・ラトル指揮、エイジ・オブ・エンライトゥンメント・オーケストラ
マグダレーナ・コジェナー(メゾ・ソプラノ)
ジョス・ファン・インマゼール(フォルテ・ピアノ)
コジェナーは、ザルツブルク音楽祭に出演するなど人気のメゾ。
モーツァルトを得意にしていまして、特に《ティトゥスの慈悲》は当たり役。
マッケラス指揮の全曲盤(DG)ではセスト役を好演しております。
2006年ザルツブルク音楽祭ガラ・コンサートでもハーディング指揮、
ウィーン・フィルとアリアを披露しておりましたね(NHKが放送)。
テーマ:クラシック - ジャンル:音楽
- 2008/04/17(木) 19:22:19|
- 指揮者
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文質彬彬(4) 歌劇《ドン・ジョヴァンニ》 K.527「悪党、汝の頭上にいかづち落ちん!」…詰め寄られるドン・ジョヴァンニと従者レポレッロ…「たとえこの世が崩れんとも、俺を恐れさせるものなど何もない!」…叫ぶドン・ジョヴァンニ…
第1幕の幕切れ怒濤の7重唱。ノリにノったモーツァルトの筆は第17場からよどみなく流れ、ダンスをともなう大宴会でのこもごもの駈け引きを見事に描き出す。それは、第2幕“地獄堕ち”直前のドン・ジョヴァンニ一人きりの食事 ― 最後の晩餐と一対をなしており、追い詰められる自分を、むしろ楽しんでいるかのごとき自虐的な姿こそは、ドン・ジョヴァンニの絶頂であって、頽廃的色香を芬々として醸す…
ここの音楽は、その昔亭主を魅了し、モーツァルト・オペラの世界に引きずり込んだ箇所のひとつです。ドラマ・ジョコーソすなわち“冗談劇”なのだけれども、うーん、一筋縄ではゆかない深遠なるドラマですね。
帝都ウィーンではなく、自由を謳歌していたプラハだから、さらにモーツァルトを愛した街だからこそ成立し得たオペラなのでしょうか。
ロレンツォ・ダ・ポンテ作 2幕のドラマ・ジョコーソ
《罰を受けし放蕩者、またはドン・ジョヴァンニ》
初演:1787年10月29日、プラハ帝国劇場(エステート劇場)

プラハ城から旧市街・ヴルタヴァ河・カレル橋(右)をのぞむ
[以下、亭主撮影]
*請拡大
プラハ郊外、ドゥシェク夫妻の別荘ベルトラムカ
ここで《ドン・ジョヴァンニ》が仕上げられた。
ドゥシェク夫人ヨゼファは名ソプラノ歌手であり、モーツァルトは滞在のお礼に
コンサート・アリア「愛しいひとよ、さようなら…」K.528を贈った。
難曲ながらコンサート・アリアの白眉!

ベルトラムカ荘入口

《ドン・ジョヴァンニ》が初演されたエステート劇場。
映画《アマデウス》はプラハで撮影され、
オペラ・シーンにはこの劇場が使われた。
《ドン・ジョヴァンニ》は、《イドメネオ》と並んで、亭主最愛のオペラなので、架蔵の音盤も多く、選択するのは容易でありませんが、以下印象に残る盤を年代順に…(カラヤンはともかく、ベームが入らなかったなあ)。また、映像のみは今回は除外。

ブッシュ盤

ワルター盤(1937)
■フリッツ・ブッシュ指揮、グラインドボーン音楽祭管弦楽団(1936)▲
[EMI:CHS7-6103-2]■ブルーノ・ワルター指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1937、ライヴ)
[URANIA:URA22.231]*ドン・ジョヴァンニはエッツィオ・ピンツァ。
■ブルーノ・ワルター指揮、メトロポリタン歌劇場管弦楽団(1942、ライヴ)★♪
[MEMORIES:HR4225]NAXOS盤あり。*ドン・ジョヴァンニはエッツィオ・ピンツァ。

ワルター盤(1942)

セル盤
(写真はエッツィオ・ピンツァ!)■ジョージ・セル指揮、メトロポリタン歌劇場管弦楽団(1944、ライヴ)
[ARCHIPEL:ARPCD0116-2]*ドン・ジョヴァンニはエッツィオ・ピンツァ。
■ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1953、ライヴ)▲
[BWS:90CD37-7313]EMI盤あり。左記はブルーノ・ワルター協会原盤のコロンビア盤。*ドン・ジョヴァンニはチョーザレ・シエピ。54年収録の映像(会場はフェルゼンライトシューレ)あり(DG)。録音も50年、54年がある。
■ヨーゼフ・クリップス指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1955)▲
[DECCA:POCL3944]左記は国内盤。輸入盤多し。
フルトヴェングラー盤

クレンペラー盤
■オットー・クレンペラー指揮、ケルン放送交響楽団(1955、ライヴ)▲
[TESTAMENT:SBT2149]WDR原盤。■ハンス・ロスバウト指揮、パリ音楽院管弦楽団(1956、ライヴ)▲
[Ina:IMV074]*エクサン=プロヴァンス音楽祭ライヴ。50年、52年、58年のライヴ、56年のスタジオ録音(EMI)がある。
■カルロ・マリア・ジュリーニ指揮、フィルハーモニア管弦楽団(1959)
[EMI:TOCE9442]左記は国内盤。輸入盤多し。■ロリン・マゼール指揮、パリ・オペラ座管弦楽団(1979)
[SONY:CSCR8064]*ドン・ジョヴァンニはルッジェーロ・ライモンディ。ジョセフ・ロージー監督の映画版(フランス、ゴーモン製作)あり。
ロージー監督・映画『ドン・ジョヴァンニ』のポスター
亭主が大学時代に京都で鑑賞した際のもの
■リボル・ペシェク指揮、プラハ室内管弦楽団(1981)
[C:COCQ84135]スプラフォン原盤。*プラハ初演版による。
■ラファエル・クーベリック指揮、バイエルン放送交響楽団(1985)
[BV:BVCC7056]オイロディスク原盤。■アルノルト・エストマン指揮、ドロットニングホルム宮廷劇場管弦楽団(1989)▲
[L’OISEAU-LYRE:425 316-2]*別キャストの映像(1987年、PHILIPS)あり。
■ジャン=クロード・マルゴワール指揮、ラ・グランド・エキュリ・エ・ラ・シャンブル・デュ・ロワ(1996)★
[ASTRÉE:E8635]*ウィーン版による。
■ダニエル・ハーディング指揮、マーラー室内管弦楽団(1999、ライヴ)
[VIRGIN:7243-5-45425-2-7]*映像版(2002年、エクサン=プロヴァンス音楽祭)あり。ハーディングにはウィーン・フィルとのザルツブルク音楽祭映像(2006年、DG)もある。
■ルネ・ヤコブス指揮、フライブルク・バロック・オーケストラ(2006)
[HMF:HMC801964.66]
ロスバウト盤

マルゴワール盤
ブッシュ盤は、《ドン・ジョヴァンニ》録音史の原点であり、折にふれて立ち返るべき秀演。
ワルターのウィーン・フィル盤は理想の組み合わせではありますが、少々音が貧しい。メトロポリタン盤こそは必聴盤。ワルターの指揮に勢いがありますし、歌手陣も理想的。なかんずくピンツァのドン・ジョヴァンニに魅了されます。晩年、スタジオでのコロンビア響とのシンフォニー録音などからは想像できないワルターの音作りにぐいぐいと引き込まれます。やはり彼はオペラ指揮者なんですね。同じメトでも2年後のライヴはセルの指揮。ワルターにはおよびません。
フルトヴェングラー盤は3種あり、いずれもザルツブルク音楽祭ライヴ。諸盤の録音年には疑義があるようですが、まずは53年盤といわれる録音あたりが妥当でしょう。フルトヴェングラーのモーツァルト・オペラとしては、むしろ《魔笛》(1951年ライヴ)の方がよい、と亭主は思っております。
クリップス、ジュリーニの両盤は世評高い定番のスタジオ録音ですね。年配の愛好家はみな架蔵されていることでしょう。
上掲したクレンペラー盤は、よく知られたフィルハーモニア管とのステレオ・スタジオ録音(EMI)ではなく、モノラルのライヴ録音です。弛緩したスタジオ盤よりも、断然クレンペラー本来の持ち味がでています。WDRのソースであり音質・復刻良好。同時期のライヴ、この曲がおはこだったロスバウト盤も聴いておきたいですね。
マゼール盤は、まずは映画の方を観ましょう。ペシェク盤は、初演地プラハのスタッフによる演奏で、版もそれに準じています。クーベリック盤は通好みの渋い演奏。
80年代後半、古楽器による演奏が登場します。先陣を切ったのがエストマン盤。映像もありますが、キャストの揃ったスタジオ録音盤をお薦めします(ツェルリーナはバーバラ・ボニー)。今でも新鮮な演奏であり、エストマン指揮の《コシ・ファン・トゥッテ》《フィガロ》《魔笛》と比べて一番の出来。まあ、フルトヴェングラー盤と対極にあるわけですが、この両極端の解釈を受け入れるモーツァルトの音楽はすごいなあ、とあらためて感嘆した次第。
エストマン盤よりもあくが強いのがマルゴワール盤。このオーケストラ特有の土俗的な響きが、このオペラによく合っていて、スペインの農村風景でもかいま見せるような瞬間が随所にあります。ウィーン版によっているので、“地獄堕ち”で幕切れです。
今人気のハーディングによるライヴ盤は評判のようですね。確かに一聴したときは、そのピリオド奏法を意識した鮮やかな棒裁きに感心しましたが、最近はめっきり聴かなくなりました。10年前の亭主であれば、真っ先に推奨していたかもしれません…。
最新のヤコブス盤は、彼の一連のモーツァルト・オペラ録音のなかでは最も成功したもの。《コシ》や《フィガロ》、また《ティトゥス》では耳障りだった解釈が、さほど気になりませんでした。
この他、オリジナル楽器使用による演奏として、ノリントン盤(92年、VIRGIN)やクイケン盤(95年、ACCENT)があり、もちろんモダン楽器によるアーノンクール盤(88年、TELDEC)や古いミトロプーロス盤(56年ライヴ、SONY)、ロスバウト盤(56年、EMI)、フリチャイ盤(65年、DG)などもそれぞれに特色があって挙げればきりがなくなります。
このオペラの場合、結局は共感できる自身のドン・ジョヴァンニを探すしかないのでしょうかねえ。
ちなみに《ドン・ジョヴァンニ》で最も恐ろしい場面は、“地獄堕ち”…ではなく、その後の大団円6重唱ですよ。
ドン・ジョヴァンニが地獄に堕ちたと知った面々が次々に歌いだす…
ドン・オッターヴィオ:私に慰めを与えて…(ドンナ・アンナに求婚)
ドンナ・アンナ:愛しいひとよ、一年待って…
ドンナ・エルヴィーラ:修道院に入って一生を…
ツェルリーナとマゼット:さあ、家に帰ってご飯だ、ご飯…
レポレッロ:もっと上等な主人を早速にもみつけなきゃ…
全 員:あの悪党は地獄で閻魔と暮らすといい、私たち、善人たちは楽しく繰り返そう、昔の歌を…
「非道者の死は、いつでも生とは同じものなのだ!」
テーマ:クラシック - ジャンル:音楽
- 2008/04/15(火) 20:28:06|
- 歌劇
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ジョージ・セルのモーツァルト・ライヴ(1957)セルとモーツァルトとの相性については、昔から愛盤家の云々するところ。
おおかたは「好きじゃない」「冷たい」派と思いますが、少数ながら「好き!」派のこだわりは相当なもので、けっこう強く「セルのモーツァルトは凄い、熱い」ことを主張します。
亭主は、といえば、セルは好きですねえ。しかし、何でもかでも、というわけにはまいりませぬ。よく取り上げられるシンフォニーの録音よりも、コンチェルトの伴奏、セレナード・ディヴェルティメント類、また指揮ではなくてセルがピアノを弾いたヴァイオリン・ソナタが佳いですな。
コンチェルトの伴奏では、世評高い一連のカサドシュ盤(SONY)よりも、ルドルフ・フィルクスニーの伴奏をアムステルダム・コンセルトヘボウ管で指揮した1958年のザルツブルク・ライヴ(SONY)が…
管弦楽曲では、クリーヴランド管でセル愛好のディヴェルティメントK.131(1963年、SONY)が…
ヴァイオリン・ソナタでは、ヨーゼフ・シゲティ(K.454・481)の伴奏(1950年代、VANGUARD)とラファエル・ドルイアン(K.376・301・304・296)の伴奏(1967年、SONY)とが…
すぐに思い浮かぶ亭主愛聴盤です。
そんなところへ今回の初出ライヴ盤。貴重な(マニアック?)ライヴ音源を陸続発掘するARCHIPEL。その詳細は…
■ARCHIPEL:ARPCD0398
交響曲第29番 K.201
ピアノ協奏曲第25番 K.503
交響曲第40番 K.550
レオン・フライシャー(P)
ジョージ・セル指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
1957年8月3日、ザルツブルク音楽祭ライヴまずト短調シンフォニーは、複数の録音が伝わっていますよね。クリーヴランド管(1967)、クリーヴランド管(1955)、また大阪万博のおりの来日コンサート(1970.5.22)がいずれもSONYから発売されていています。
今回のライヴ、第1楽章は55年盤よりも67年盤に近いテンポ感。上掲盤を超えるものではないと思います。
第29番は、セル唯一の録音でないかな。セルは28番なんてのをスタジオ録音しているくせに、25番や29番は結局しなかったのですね。室内楽的な要素のある29番は、ぜひともクリーヴランド管と録音を残してほしかったものです。今回は残念ながらベルリン・フィル。
結論としては、当ライヴで一番の出来。第1楽章は想像していたよりもずっと遅く、内声とのバランスをとりつつ、丹念に作り込んだ演奏。終楽章も見事でした(例のごとく金管を強調)。
さて、期待したコンチェルトは、あのレオン・フライシャーの独奏です。フライシャーは1928年サンフランシスコ生まれ。イエルク・デムスと同い年で、シュナーベルのお弟子さん。1952年のエリーザベト王妃国際コンクール優勝の俊英だったのですが、脂がのるはずの60年代初頭にジストニアによって指が麻痺。演奏活動中止に追い込まれたのです(近年復活したそうです)。
セルのピアノ協奏曲伴奏としては、上述ロベール・カサドシュとの一連の録音があまりにも有名ですが、きわめて不可思議なことに、カサドシュは20番台にあって第25番だけはセルと録音しなかったのですよ(ビゴー指揮ラムルー管とVOXには録音あり)。
曲想的にいって、セル個人としてはやりたかったんじゃないかなあ、と思います。事実、ゼルキンと録音していますし(表記上はコロンビア響)、フライシャーとも当ライヴの2年後、1959年にクリーヴランド管とスタジオ録音しているのです(下に掲載の10枚組セル―モーツァルト・ボックス所収、SONY:82876867932)。

*かなり楽しめるボックス。
ドルイアンとのソナタ、ブダペスト四重奏団員との
ピアノ四重奏曲K.478・493(1946年)も入っています。
ソニー独自のDSDによる下品なリマスターがちょっと耳障りだけども…。
25番は、亭主ただいまカール・ゼーマンのライヴ盤(1979年、ORFEO:C447-961B)にご執心なので、ちょっと物足りないです。第1楽章が速いのですよねえ…(2年後のスタジオ録音とタイムはほぼ同じ)。フライシャーのピアノは、セルのスタイルにあわせたもの。タッチは十分に美しいのですが、もうひとつ腰の据わった演奏が聴きたかったです。
最後に録音ですが、57年としては万全とはいえないものの、総じて聴きやすく、セルの唸り声もよく拾っています。拍手はうまくカットされていますが、こういう一日の演奏会を収めたものでは無理にカットしないでほしいですね。
【追 補】ジョージ・セル(1897-1970)は、1949年から死の前年まで、しばしばザルツブルク音楽祭に登場しましたが、就中当盤公演の前後は6年にわたって連続出演しています。
オーケストラは様々ですが、ほとんどの年でモーツァルトを取り上げており、そのライヴ録音が残されています。架蔵の音盤は、以下のとおり…(お薦めは58年のライヴ)

ACO盤

フランス国立管盤
■1956年8月7日 [ORFEO:C652052]
歌劇《後宮からの逃走》
ジョージ・セル指揮、ウィーン・フィルハモニー管弦楽団、エリカ・ケート(コンスタンツェ)*当音楽祭で交響曲第40・41番、ピアノ協奏曲第23番(ピアノはセル自身)が演奏されたようだが、亭主未聴。
■1957年8月3日 当盤*歌劇はリーバーマンの《女の学校》(ドイツ語版)初演を指揮。
■1958年8月6日 [SONY:SICC458]
交響曲第41番、ピアノ協奏曲第9番(ピアノ:ルドルフ・フィルクスニー)
ジョージ・セル指揮、アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団*上記盤には未収録だが、交響曲第33番も演奏。下記7枚組に収載。
■1959年 [GALA:GL100.502]
歌劇《魔笛》
ジョージ・セル指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、クルト・ベーメ(ザラストロ)■1959年8月3日 [SONY:SICC457]
交響曲第35番、ヴァイオリン協奏曲第5番(ヴァイオリン:エリカ・モリーニ)
ジョージ・セル指揮、フランス国立放送管弦楽団*上記盤にはハイドンの交響曲第92番も収録。
セルのザルツブルク音楽祭公演の全般を知るには、以下のCDがあります。ORFによるリマスタリングにセンスがないのが残念ですが(ノイズはないが、薄っぺらい貧音に改悪)、貴重な正規音源ではありますね。

■ジョージ・セル:ザルツブルク音楽祭ライヴ1958〜1968
[ORFEO:R704077] 7枚組テーマ:クラシック - ジャンル:音楽
- 2008/04/10(木) 21:52:31|
- 指揮者
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文質彬彬(3) フルート四重奏曲(全4曲)
K.285、K.285a、K.285b(Anh.171)、K.298 春あけぼのの うすねむり
まくらにかよう 鳥の声
風まじりなる 夜べの雨
花ちりけんか 庭もせに
土岐善麿の有名な漢詩和訳です(『鶯の卵』、1950)。原詩はもちろん言わずと知れた孟浩然「春暁」(春眠暁を覚えず…)ですね。
春眠から覚めるのに小鳥の声はふさわしいものですが、今朝はフルート四重奏曲をかけてみました。
モーツァルトは1777年のマンハイム滞在中に、かの有名な宮廷楽団においてフルートを受け持っていた名手ヴェンドリング(Johann Baptist Wendling)と親しくなるのですが、彼を介して知り合ったドジャン(Ferdinand Nikolaus Dionisius Dejean)なるフルートを能くするアマチュア音楽愛好家から「フルートのための、ちょっとした軽く短い協奏曲を3曲と四重奏曲を数曲」(1777.12.10、レオポルト宛の手紙)を作曲してもらいたいとの依頼を受けます。
旅先のモーツァルトとしては大いに歓迎すべきこの依頼に、彼は早速応えようととりかかるのですが……結局完成をみたのは2つの協奏曲(K.313とK.314)、及びK.285を含む3つの四重奏曲。ともかく、協奏曲(K.314)の編曲疑惑などもあって報酬は半額に。そうして手紙で、「我慢ならない楽器」のための作曲は気乗りしないと嘯くことになるわけです。“モーツァルト・フルート嫌悪説”の所以ですね。
それでも完成したK.285は、古今フルート四重奏曲の最高傑作であることに変わりなく、単なる一趣味家の依頼を超えた作品でしょう。軽い作品のように捉えられがちですが、なかなかにどうして、弦楽の内声も緻密に書かれています。
K.285aとK.285bは、一応上述ドジャンのための依頼作品とされていますが、実は自筆譜などの決定的な資料の裏付けがありません。しかし亭主は最近、地味といわれる前者K.285aのアンダンテにとても魅力を感じています。華やかで変化に富んだK.285の後ろに控えて目立たない楽章ですが、じっくりと聴いてみてください。
さて、第1曲は有名曲なので全曲録音も多く、亭主架蔵の音盤も30種ほどはあるでしょうか。なかでも印象に残っている盤を以下いくつか掲げましょう。

グラーフ盤

有田盤
凡例 F:フルート FT:フラウト・トラヴェルソ ■バルトルト・クイケン(FT)、シギスヴァルト・クイケン他(1982)
ACCENT:ACC48225
■ペーター=ルーカス・グラーフ(F)、カルミナ三重奏団(1988) ★♪
CLAVES:KICC8706
■有田正広(FT)、ボッケリーニ・クァルテット(1989) ▲
DENON:COCO6143
■ヴィルベルト・ハーツェルツェト(FT)、レザデュー(1990)
DHM:05472-77846-2
■ゲオフェリー・コリンズ(F)、オーストラリア・アンサンブル(1992)
TALL POPPIES:TP029
■クレール・ギモン(FT)、トリオ・ソネリー(2001) ★♪
EARLY MUSIC:EMCCD7754
■ステファン・シュルツ(FT)、アメリカン・バロック(2001)
M & A:CD1121 *K.285a、285bのみ
■トーン・フレット(F)、オクサリス(2004) ▲
FUGA LIBERA:FUG506
■リサ・ベズノシウク(FT)、パブロ・ベズノシウク他(2006)
AVIE:AV2108 
ハーツェルツェト盤

コリンズ盤
こうしてみますと、フラウト・トラヴェルソによる古楽器演奏が健闘していますね。本来木管であるフルートの素朴な音色を響かせるには材質を戻す、というのは確かに素直な流れであります。
クイケン盤は確か古楽器初の同曲録音として記念すべきもの。有田盤は、現在でも評価が高く、時折取り出します(発売当初の某批評誌での評価は二分していましたけどね)。使用楽器は、フリードリヒ・ガブリエル・アウグスト・キルスト作(1770年頃)のオリジナル。

ギモン盤

シュルツ盤
ハーツェルツェト盤もなかなかに佳いですが、古楽器であればギモン盤を第一に推薦します。バロック・ヴァイオリンの名手モニカ・ハジェット率いるトリオ・ソネリーも伴奏の域を超える積極的な演奏で、特にK.285は名演。

フレット盤

ベズノシウク盤
かつてホグウッドと組んで協奏曲(L’OISEAU-LYRE)を録音したベズノシウクの最新盤は、少々生温く感じられました。シュルツ盤は、疑義ある2曲のみなのですが、上述したアンダンテはゆったりと歌っていて愛聴しています。
モダン楽器では、最近エマニュエル・パユ盤(1999、EMI:TOCE14093)の評価がきわめて高いようですね。発売時にはまったく亭主の触手が動かなかったのですが、先日廉価盤が出たので買ってみました。案の定、まったくよいとは思いませんでした。ランパル盤(SONY)も昔から嫌いです。
上掲しなかったウィリアム・ベネット盤(1969、PHILIPS:442-299-2等)あたりもグリュミオー・トリオのサポートを得て安心して聴ける演奏ですが、やはりグラーフの新盤が最高ではないでしょうか。協奏曲の名盤(ローザンヌ室内管との旧盤、CLAVES)ほど有名ではないかもしれませんが、朴訥な語り口調がかえって独特の艶を生み出していて、これはもうグラーフにしかなしえない芸当ですね…ギモン盤とともに必聴の盤です。
新しい世代を代表するものとしてフレット盤も挙げておきます。ビートの効いた即興性溢れる快演としてもっと聴かれてよい演奏でしょう。
フラウト・トラヴェルソの優しい、時にハスキーな音色は、春眠をうながし、危うく寝過ごすことになります。なにもない穏やかな日曜の朝に流したいものです。
フラウト・トラヴェルソについては、以下、基本的情報を簡単にまとめましたのでご参照ください。
フラウト・トラヴェルソとは… モーツァルトが生きた18世紀は、様々な楽器が近代型に移行する、まさに揺籃期であった。フルートも例外ではない。“木管楽器”であるフルートは、現在でこそ金属(金・銀・プラチナ)製がほとんどであるが、歴史的には、黒檀・柘植(ツゲ)等の木製が主で、象牙や陶器で作られたものも多かった。正式には、フラウト・トラヴェルソ(伊Flauto Traverso)といい、元来フルート(フラウト)が、縦笛であるリコーダーを指していたので、「横の」という意味を表す「トラヴェルソ」を付加したのである。
フラウト・トラヴェルソの歴史は古く、中世・ルネサンス期から用いられてはいたが、一本作りに穴が空いただけの極めてシンプルな楽器で、独奏よりは合奏に適していたようだ。しかし、17世紀後半から、フランスを中心に、殊オペラ演奏において豊饒な色彩感を有するオーケストラが要求されるに及び、他の管楽器同様、改良が試みられることとなる。
ルイ14世時代の宮廷音楽家、オトテール一族は、従来の一本作りのフルートを、頭部管・中部管・足部管のパーツに分けること等により、独奏に耐え得る2オクターヴ以上の音域を獲得することに成功した。もっともメカニズムはごく単純で、標準はD管、6つの指孔(直接指で押さえる)、1個のキーというものであった。そのためニ調音階に含まれる音は朗々と響くが、それ以外の音は、いわゆる“クロス・フィンガリング”を必要とするため、暗い小さな音しか出なかったのである。もちろん、この不安定・不均質さをかえって表現効果として喜ぶ向きもあったようだが、他の楽器同様、次第に「改良」され、それは特にキーの追加というかたちで18世紀後半以降現れる。モーツァルトの時代は、6孔1鍵式から、調度この多鍵式フルートが出始めた頃にあたり、現在、多くの古楽器演奏家が古典派時代の曲を演奏する時に用いるハインリッヒ・グレンザー(1764-1813)製作の楽器、及びそのコピーには6鍵式のものもある。
なお、最終的に現代の金属フルートの基礎をつくったのは、19世紀半ばのテオバルト・ベーム(1794-1881)であり、いわゆるベーム式(指孔を直接指で押さえない)として今日にまで至っている。
テーマ:クラシック - ジャンル:音楽
- 2008/04/07(月) 14:33:18|
- 室内楽曲
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文質彬彬(2) ディヴェルティメント(弦楽三重奏曲) 変ホ長調 K.563 清明時節雨粉粉 清明の時節、雨粉粉たり
と晩唐の詩人、杜牧が詠った頃となりましたが、数日前の朝には雪が降り、花に嵐となりました。亭主が住まいいたすあたりは未だ桜はひらきません。来週あたりでしょうかね。
新年度あわただしきなか、せめて早朝の活動前には美味しいお茶、就寝前には一杯やりつつ静かな朝晩を過ごしたいものです。そんなとき取り出すのは、やはりシンフォニーやコンチェルト、オペラ…ではなく、室内楽、それも楽器数の少ない曲となります。今回は、春にふさわしい弦楽三重奏です。
数あるモーツァルト室内楽曲にあっても、燦然と輝く傑作のひとつがディヴェルティメントK.563です。オットー・ヤーン(1856)をして「疑いもなくモーツァルトの最も驚嘆すべき創作の一曲」と言わしめたのも首肯せらるべきところ。全6楽章のディヴェルティメント(嬉遊曲)とはいうものの、娯楽的要素はきわめて少なく、その室内楽的彫琢の極地は、かの《ハイドン・セット》と互角であろうと思います。聴き所は、第1楽章、第2楽章アダージョ、終楽章ロンド(歌曲《春への憧れ》K.596を先取り!)でしょう。
作曲:1788年9月27日、ウィーン
晩年に借金を重ねた相手、プフベルクのために書かれた、と一般的にはされていますが、俗なところ、卑屈なところは微塵もありません。
なお、この曲には草稿と考えられたト長調の断片K.562e(Anh.66)、100小節が残されています。しかし、近年の研究(アラン・タイソンの自筆譜用紙研究)では、K.563のスケッチではなく、最晩年に着手され、死によって未完成に終わった作品であることがわかりました。完成されていれば、間違いなく傑作となっていたものと十分に推され、まことに残念!
ということで、亭主の推薦盤案内にまいりましょう。名作だけに録音もそこそこにありますが、注目されるのは以下の盤でしょうか…

フックス兄弟盤

ドイツ三重奏団盤
■ハイフェッツ(Vn)・プリムローズ(Va)・フォイアマン(Vc)盤(1941)[BIDDULPH:LAB074]▲ *原盤はRCA。「オーパス蔵」でも復刻されている(OPK2062)。
■フックス兄弟(Vn、Va)・トルトゥリエ(Vc)盤(1953、ライヴ)[KOCH:3-7004-2]▲ *フランス・プラド音楽祭ライヴ。カップリングは、フックス兄弟による協奏交響曲K.364で、指揮はパブロ・カザルス(!)。
■グリュミオー・トリオ盤(1967)[PHILLPS:454023] *様々なかたちで再発売され続けており入手容易。上記は最近の2枚組輸入盤。
■クレーメル(Vn)・カシュカシアン(Va)・マ(Vc)盤(1984)[SONY:22CD5563] *再発売され続けており入手容易。
■ドイツ弦楽三重奏団盤(1989)[INTERCORD:INT830-873]▲ *珍曲「弦楽三重奏曲(断片)ト長調 K.562e(Anh.66)」をフランツ・バイヤー補作版でカップリング。
■トリオ・リチェルカーレ(1991)[RICERCAR:RIC096080]★♪ *ヴィオラは寺神戸亮。BRILLIANT CLASSICSのMOZART EDITION Vol.16にも所収。
■レオポールド弦楽三重奏団盤(2000)[HYPERION:CDA67246]★ *弦楽二重奏曲K.424とカップリング。

トリオ・リチェルカーレ盤

レオポールド三重奏団盤
※ちなみに古楽器による演奏としては、他にラルキブデッリ盤(90、SONY)、アレア・アンサンブル盤(02、CREMONA)がある。両盤ともに演奏はイマイチ。
ハイフェッツ盤は、曲の核心をグリグリとえぐり出す熱い演奏。おそらく同曲最初の録音。流麗かつ艶麗なグリュミオー盤と一対をなすものとして、いずれも聴いておきたいところ。フックス盤も往年の貴重なライヴ。
クレーメル盤は世評のたいへん高いものですが、亭主は好みません。クレーメルならば、弦楽二重奏曲K.423、424の録音(1984、DG)の方が名演。
ドイツ弦楽三重奏団盤は、なんといってもK.562eの断片が聴けるのがうれしい。それもフランツ・バイヤーの補作版で。この珍曲は、他ではカラフツ・トリオ(77、INTERCORD)や展開部で中断してしまうフランス弦楽三重奏団(78、CCV)、アカデミー室内合奏団(89、PHILIPS全集)の各盤(前2者はLP)くらいでしか聴けないから、とても貴重であります。メンバーはシュトゥットガルト放送響やバイエルン放送響の奏者です。
最も推薦したいのは、トリオ・リチェルカーレ盤。古楽器だから、ということではなく、演奏そのものがきわめて濃密ゆえ。録音も生々しい。現在RICERCAR原盤は入手困難のようですが、幸いにもBRILLIANT CLASSICSの廉価盤MOZART EDITIONに収められたので、セットでの購入は容易。
レオポールド盤は、若々しい今風の演奏。上述盤のごとき“熱さ”や“濃さ”は皆無ですが、室内楽にそういうものを求めない向きには、きわめて優秀な演奏といえるでしょう。
さて、明日は大風も落ち着き、うららかな春の日和を期待したいところですが、起床一番、如上いずれの盤で出勤前を飾りましょうか…。
テーマ:クラシック - ジャンル:音楽
- 2008/04/02(水) 21:17:22|
- 室内楽曲
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