銀蛇亭贅語 〜 莫扎特(モーツァルト)音盤記

モーツァルトの音盤(CD、DVD等)についてつづる視聴記。随時、推薦盤の紹介もおこないます。

ききこんでいるひと篇(2)

              ききこんでいるひと篇(2) 完

■ヴァイオリン・ソナタ ニ長調 K.7
モーツァルト7歳のときの作品。モーツァルトの音楽を語るとき、年齢のことをいちいち取り上げていたらキリがないことになるが、それでも年齢を知りつつこういった作品を聴くと、もちろん幼い作品ではあるが、唸らざるをえない。

【推薦盤】ゲイリー・クーパー(フォルテ・ピアノ)
      レイチェル・ポッジャー(バロック・ヴァイオリン)
      (2004年録音)[CHANNEL CLASSICS:CCSSA22805]
 正式には「ヴァイオリン助奏付きクラヴィア・ソナタ」であり、鍵盤楽器に主導権があるのだが、ここでのポッジャーは饒舌なヴァイオリンでそれに拮抗している。

【裏推薦】ピーター=ヤン・ベルダー(チェンバロ)
      レミー・ボーデ(バロック・ヴァイオリン)
      (2001年録音)[BRILLIANT CLASSICS:99721]
 鍵盤楽器にチェンバロを選択した演奏。素直な趣味のよい演奏で、こちらをまず推薦すべきだったか。ボーデはブリュッヘン率いる18世紀オーケストラの首席。
 最近、ヴァイオリン・ソナタ分野には、古楽器による個性豊かな演奏が陸続と出現していて喜ばしい。全集に向かっている上記ポッジャー盤の他、特にファブリツィオ・シプリアーニ(ヴァイオリン)、セルジオ・シオメイ(フォルテ・ピアノ)の演奏(2003年録音)[NORTHWEST CLASSICS:303136]やファビオ・ビオンディ(ヴァイオリン)、オルガ・トヴェルスカヤ(フォルテ・ピアノ)の演奏(1997年録音)[OPUS111:OPS30-216]はかなり大胆な解釈を聴かせる。
 ちなみに後者、ビオンディが手勢古楽アンサンブルのエウロパ・ガランテと組んでおこなったヴァイオリン協奏曲第1〜3番K.207、211、216の新録音(2005年録音)[VIRGIN CLASSICS:3-44706-2]は刺戟的だ。何と通奏低音にフォルテ・ピアノとともにギターを入れている!

■4声カノン《おやすみ、お前はほんとのおバカ(去勢牛)さん》 K.561
モーツァルトには一連のカノン・重唱作品があるが、それらほとんどが内輪の友人との楽しみに書かれたもので、歌詞としてはきわどいものが多い。しかし、モーツァルトが遺した多数の手紙とともに、その本質に迫るに欠かせない資料であるといえよう。卑猥な歌詞を上品なものに差し替えたブライトコップフ版なぞは愚の骨頂。

【推薦盤】エーリヒ・ケラー指揮
      ミュンヘン・コンヴィヴィウム・ムジクム合奏団 (1960年代録音)[EMI:2DJ-3827]
 K.561は、ドイツ語、イタリア語、フランス語、ラテン語、英語のチャンポン。この分野は、他に「プラーター公園に行こう」K.558、「おお、お前おバカなマルティン」K.560、三重唱「いとしのマンデル、リボンはどこ」K.441、四重唱「いとしい私の食いしんぼさん」K.571aなど名曲(?)が多く、このアルバムに収められている。独唱は、何とエリカ・ケート(ソプラノ)、ペーター・シュライヤー(テノール)、ヘルマン・プライ(バリトン)、ワルター・ベリー(バス)という豪華メンバー。

【裏推薦】ザ・ソング・カンパニー
      ジェフリー・ランカスター(フォルテ・ピアノ) (1991年録音)[TALL POPPIES:TP009]
 歌詞が英訳されている。幸か不幸か、よりわかりやすい結果となった。ゆえに「Lech mich im Arsch」K.231は、「Kiss my Backside」となる。ブライトコップフ版では「愉快に暮らしましょう」との穏便な歌詞に差し替え。ランカスターのフォルテ・ピアノが興趣を添えている。

■コンサート・アリア《もし私の唇を信じないなら》 K.295
《イドメネオ》でタイトルロールを歌うことになる老テノール、アントン・ラーフのために書かれた。彼の声を考慮して音域も狭く設定され、名人芸を披露する箇所とてないが、淡々憂愁に包まれる不思議な曲である。

【推薦盤】ハンス=ペーター・ブロホヴィッツ(テノール)
      ヨルグ=ペーター・ウェイグル指揮
      ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団 (1990年録音)[PHILIPS:422-523-2]
 ラーフの要請により短縮された第2版による演奏。ブロホヴィッツのリリックな美声に魅了される。

【裏推薦】クリストフ・プレガルディエン(テノール)
      ミチ・ガイグ指揮
      オルフェオ・バロックオーケストラ (2001年録音)[CPO:999810-2]
 初版による演奏。プレガルディエンののびやかな歌声が響く。ちなみにこのアルバムには、テノールのためのコンサート・アリアの合間にシンフォニー第1番K.16が挿入されており、ガイグの尖鋭な指揮ぶりが楽しめる。

■ミサ・ブレヴィス ヘ長調 K.192
クレド楽章の念入りな書法から、K.257に対し《小クレド・ミサ》とも呼ばれる。モーツァルトのザルツブルグ時代ミサ曲の扱いには不当なものがあるが、この曲は、《ミサ・ロンガ》K.262や《クレド・ミサ》K.257らとともにもっと演奏されてよい。

【推薦盤】ペーター・ノイマン指揮
      コレギウム・クラシクム・ケルン
      ケルン室内合唱団 (1985年録音)[CARUS:83-103]
 20年前、この《ザルツブルグ時代の教会音楽1774》と題されたアルバムに出会ったときの衝撃はすさまじかった。選曲・演奏・録音ともに申し分なく、呆然と聴き惚れた記憶も生々しい。カップリングの《サンクタ・マリア》K.273、《ディクシットとマニフィカト》K.193もたいへんに素晴らしい。

【裏推薦】ペーター・ノイマン指揮
      コレギウム・カルトゥジアヌム
      ケルン室内合唱団 (1990年録音)[EMI:CDC7542492]
 同じ指揮者による演奏。オーケストラもほぼ同一メンバー。EMIによる録音が少々大味であるのがまことに残念だが、演奏はより洗練。《レクイエム》も含め、ミサ曲全曲を録音している。

■歌劇《ポントの王ミトリダーテ》 K.87
オペラ・セリアといえば何といっても《クレタの王イドメネオ》。また最近は《皇帝ティトゥスの慈悲》も復権してきた。今後はこの初期オペラ《ミトリダーテ》(14歳)や、祝典劇《シピオーネの夢》K.126、《アルバのアスカーニョ》K.111(ともに15歳)が見直されてこよう。新演出を受け入れる余地はあると思う。

【推薦盤】イェド・ヴェンツ指揮
      ムジカ・アド・レーヌム (2001年録音)[BRILLIANT CLASSICS:99723]
 スター歌手を揃えて話題になったクリストフ・ルセ指揮、レ・タラン・リリク盤(DECCA)もあるが、作品に虚心に向きあったヴェンツ盤が好ましい。大仰に歌わない歌手陣も秀逸。

【裏推薦】《アルバのアスカーニョ》K.111
      ジャック・グランベール指揮
      コンチェルト・アルモニコ (1990年録音)[ADDA:90043]
 ここでは《アスカーニョ》を薦めよう。カウンター・テナーのマイケル・チャンスがタイトルロールを好演している。
 《ミトリダーテ》の映像としては、天才ジャン・ピエール・ポネルが演出したニコラウス・アーノンクール指揮、ウイーン・コンツェントゥス・ムジクス(1986年:イタリア、ヴィチェンツア・テアトロ・オリンピコ、ユニテル製作)がやはりすごい。ポネルは、《イドメネオ》の演出もおこなっており、ジェームズ・レヴァイン指揮のメトロポリタン歌劇場公演が映像になっている(1982年)。タイトルロールを歌うパヴァロッティが興趣を削ぐが、演出は素晴らしい。音だけであれば、チャールズ・マッケラス指揮、スコットランド室内管弦楽団の演奏(2001年録音)[EMI:5-57260-2]が特筆される。


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  1. 2008/03/27(木) 15:06:10|
  2. 推薦盤

ききこんでいるひと篇(1)

                  ききこんでいるひと篇(1)

ことさらに奇をてらった選曲にはしませんでした。モーツァルティアンにはおなじみの曲ばかりですが、まだまだ演奏される機会の少ない隠れた名曲群です。

■シンフォニー[第14番] イ長調 K.114
滅多に演奏されない初期・中期のシンフォニーだが、珠玉の作品が多く、ここはこの第14番で代表させた。この曲は2管編成で多いオーボエではなく、フルートを使用しており、響きやフレーズが前後の作品群と異なる。

【推薦盤】トレヴァー・ピノック指揮
      イングリッシュ・コンサート (1992年録音)[ARCHIV:471-666-2]
 本来、「名演」が存在する類の曲ではないので、ここはありのままを素直に音にした演奏を挙げた。チェンバロのコンティヌオ付き。

【裏推薦】トーマス・ファイ指揮
      シュリーバッハ室内管弦楽団 (1998年録音)[HÄNSSLER:98-335]
 アーノンクールの薫陶を受けた、若きファイが金管を強調した特異な演奏を聴かせる。モダン楽器による演奏だが、金管のみ古楽器使用。
 同じフルートを使った中期の名作、イ長調の第21番K.134も是非聴いて欲しい。25番《小ト短調》や29番だけが中期シンフォニーではない。演奏は、フィリップ・アントルモン指揮、ウィーン室内管弦楽団(1989年録音)[HMF:HMT7901304]が曲想をとらえていてお薦め。

■ディヴェルティメント[第2番] ニ長調 K.131
モーツァルト16歳の時の作品であるが、同時期のシンフォニーに比して管楽器の扱いが多彩であり、まったく飽きさせない。フルート、オーボエ、ファゴット、それにホルン4本(!)が全6楽章のいたるところにちりばめられており、モーツァルトが時折やるメロディーの大量消費が耳に心地よい。第2楽章は絶品。

【推薦盤】ネヴィル・マリナー指揮
      アカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ
      (1987年録音)[PHILIPS:420-924-2]
 常にモーツァルト指揮者といわれるマリナー。しかし、本質的には違うと思う。今後は恐らく廃れていくタイプの演奏であろうが、この曲ではマリナーの欠点がプラスに作用している。

【裏推薦】ジョージ・セル指揮
      クリーヴランド管弦楽団 (1963年録音)[SONY:SBK62830]
 モーツァルト指揮者と呼ばれない可哀想なセル。いやいや、彼もモーツァルト指揮者だ。そういえば、フルトヴェングラーもモーツァルト指揮者と呼ばれることはないが、彼が遺した《魔笛》のライヴ(3種のザルツブルグ音楽祭録音うち、エーリッヒ・クンツがパパゲーノを歌う1951年のものがベスト)を聴けば考えは変わるだろう[FOYER:3CF2003]。

■オーボエ協奏曲[断片] ヘ長調 K.293
これは、有名なK.314ではない。70小節(前奏部分)まで書かれているが、その後は独奏パートのみのトルソー。素晴らしい曲であり、完成されなかったことが残念。

【推薦盤】インゴ・ゴリツキ(オーボエ)
      ヴォイチェフ・ライスキ指揮
      ポーランド・チェンバー・フィルハーモニック
      (1992年録音)[CLAVES:CD50-9302]
 ロバート・レヴィンによる補完版を用いての演奏で初録音。ゴリツキのオーボエは、硬めの音色であるが、モーツァルトには、名手ホリガーなどよりもむしろ合っている。
 上記盤には有名なK.314もカップリングされており、こちらも名演。K.314は、古楽器であれば、ミヒャエル・ニースマン(バロック・オーボエ)、コンチェルト・ケルンの演奏(1990年録音)[CAPRICCIO:10-375]が内声部を強調していて刺戟的。

【裏推薦】ピアノとヴァイオリンのための協奏曲 ニ長調 K.315f
      モニカ・レオンハルト(ピアノ) ライナー・カスマウル(ヴァイオリン)
      ヨルゲン・カスマウル指揮 アムステルダム・モーツァルト・プレーヤーズ
      (1990年録音)[CHANNEL CLASSICS:CCS1190]
      ヴァイオリン・ヴィオラ・チェロのための協奏交響曲 イ長調 K.Anh104
      アイオナ・ブラウン(指揮・ヴァイオリン) 今井信子(ヴィオラ)
      スティーヴン・オートン(チェロ)
      アカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ
      (1989年録音)[PHILIPS:422-670-2]
 別の曲であるが、ここでは未完に終わったモーツァルトの協奏曲から2曲紹介。いずれもフィリップ・ウィルビーの補完版で聴くことができる。聴くたびに未完成が惜しまれる。

■弦楽五重奏曲[第5番] ニ長調 K.593
6曲ある弦楽五重奏曲のなかでも何故か演奏機会が少ない。よく知られた3番や4番ももちろん素晴らしいが、この5番も是非聴いて欲しい。第2楽章アダージョの転調など聴き所が多い。

【推薦盤】アンサンブル・ヴィラ・ムジカ (2001年録音)[MD+G:MDG304-1106-2]
 ベルリン・フィルのモーツァルトはどうもいただけないが、個々のメンバーが悪いわけではないらしい。このアンサンブルは、ベルリン・フィルとバイエルン放送響とのメンバーからなり、奇をてらわないながらも随所にひらめく解釈を入れる。

【裏推薦】アレクサンドレ・マグニン(フルート)
      ヤナーチェク弦楽四重奏団 (2000年録音)[DA CAMERA MAGNA:DACA77062]
 フルート五重奏曲版による演奏。第1ヴァイオリンのパートをフルートに替えたものでほぼ原譜通り。
 古楽器の演奏であれば、モニカ・ハジェットとパブロ・ベズノシュウクとがバロック・ヴァイオリンを務めるハウスムジーク(1992年録音)[EMI:CDC754876-2]が曲の核心に迫っている。

■ピアノ三重奏曲 ホ長調 K.542
まったくピアノ三重奏曲はどれも素敵。K.502、496、254もいい。選択不能ゆえ上記で代表させた。このジャンルにおける学者の評価は必ずしも高くはないが(室内楽曲としての彫琢の甘さということだろう)、K.542は三大シンフォニーと同時期の作曲だけあって、さすがに一頭地を抜いている。第3楽章に挿入される嬰ハ短調エピソードはとりわけ印象的で、モーツァルトにしては珍しく長目に引っ張ってくれていて、聴くものを悦ばせる。

【推薦盤】スティーヴン・ルービン(フォルテ・ピアノ)
      モーツァルティアン・プレーヤーズ (1990年録音)[HMF:HMU907034]
 この演奏は、ピアノ三重奏曲のよさを存分に引き出している佳演。ルービン奏でるフォルテ・ピアノの音色と即興性とがまことに心地よい。

【裏推薦】トリオ・パルナッソス(1990年録音) [MD+G:MDG303-0373-2]
 少々品が良すぎるが、モダン楽器による演奏として挙げた。もちろんピアノ三重奏の録音が不遇な時代から積極的に取り上げてくれていたボザール・トリオ盤も名演(1967年録音)[PHILIPS:446-154-2]。

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  1. 2008/03/27(木) 15:01:17|
  2. 推薦盤

これからきくひと篇(2)

                  これからきくひと篇(2)

■ピアノ四重奏曲 ト短調 K.478
「他の多くの作品なら二流の演奏でも楽しめよう。しかし、このモーツァルトの創造物だけは、二流のディレッタントの手にかかり粗雑に演奏されると、まったく聴けたものではない」(雑誌『豪奢と流行』、1788年ベルリン)。

【推薦盤】パウル・レウィス(ピアノ)
      レオポルド弦楽三重奏団 (2002年録音)[HYPERION:CDA67373]
 際だった特徴はないが、センスのある演奏。時折みせるピアノの即興がおもしろい。

【裏推薦】アンドレアス・シュタイアー(フォルテ・ピアノ)
      レザデュー (1990年録音)[DHM:BVCD49]
 鬼才シュタイアーが聴かせる。特にこの曲の肝要、第1楽章展開部、短調重層構造のバランスは、レザデューともども絶妙である。この部分の凄さに気づいているか否かが名演・駄演の境目。
 映像では、クリスティアン・ツァハリスが高級磁器のごときピアノで魅了するルートヴィヒスブルク城ライヴがよい(1988年:ユーロ・アーツ社製作)。

■ピアノと木管のための五重奏曲 変ホ長調 K.452
管楽器の使い方に関してもモーツァルトの右に出るものはいない。この曲は、弦楽器がない分、その妙が生に感じられる。後にベートーヴェンが同編成の曲を作曲することになるが差は歴然。

【推薦盤】アルフレッド・ブレンデル(ピアノ)他 (1986年録音)[PHILIPS:420-182-2]
 世評高いブレンデルのピアノをよいと思ったことはないが、唯一の例外はこの演奏。これは、ホリガーのオーボエ、ブルンナーのクラリネット、バウマンのホルン、トゥーネマンのファゴットという望めないくらいの名手競演とフィリップスの録音とによるところが大きいのかもしれない。

【裏推薦】コンソルティウム・クラシクム (1998年録音)[MD+G:MDG301-0498-2]
 ピアノ・パートを弦楽4部にした当時の編曲版。この手のもとしてはかなりよくできている。精力的に編曲版の発掘を続けるリーダーのディーター・クレッカー(クラリネット奏者)には脱帽。

■証聖者の荘厳晩禱(ヴェスペレ) ハ長調 K.339
初心者用10曲のなかに宗教曲を2曲入れるというのは変格であろうが、亭主をモーツァルティアンにした張本人でもあるので、どうしてもはずせなかった。このK.339ほど演奏されないが、もう一つのヴェスペレK.321も名曲。

【推薦盤】トン・コープマン指揮
      アムステルダム・バロック・オーケストラ
      同合唱団 (1994年録音)[ERATO:0630-10705-2]
 コープマン特有の即興性と躍動感に溢れた名演。ソプラノのバーバラ・シュリックが花を添えている。ちなみに思い出の演奏は、コリン・デイヴィス指揮、ロンドン交響楽団のもの(PHILIPS)。
 モダン楽器ならば、パトリック・ペイレ指揮、コレギウム・インストルメンタレ・ブルゲンセ、カペラ・ブルゲンシス(1996年録音)[NAXOS:8-554158]をお薦めする。この学究肌の指揮者は、なかなかに通好みのアルバムを作っていて、《モーツァルト:モテットとオッフェルトリウム集》(1993年録音)[FORLANE:UCD16714]、《モーツァルト:フリーメイスン音楽集》(1992年録音)[RENÉ GAILLY:CD92-013]を別レーベルに録音している。特に宗教曲小品を収めた前者は必聴盤。

【裏推薦】ニコラウス・アーノンクール指揮
      ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス
      シェーンベルク合唱団 (1986年録音)[TELDEC:8-43535]
 楽章間にア・カペラのアンティフォナ(交誦)を挿入するという当時の慣習を復活させた演奏。アーノンクール節に好みが分かれるところ。
 同じ古楽器演奏では、ペーター・ノイマン指揮、コレギウム・カルトゥジアヌム、ケルン室内合唱団(2004年録音)[MD+G:MDG932-1346-6]もよい。ノイマンについてはたびたび推奨してきたが(拙稿参照)、これはその最新録音。演奏はアーノンクールの対極にあり、清純に過ぎるかもしれないが、相変わらず合唱の扱いが巧み。

■大ミサ曲[未完] ハ短調 K.427
煩瑣な版問題がある《レクイエム》(ジュースマイヤー版、バイヤー版、モーンダー版、ランドン版、ドゥルース版、ヴァド版、レヴィン版、フロスワス版、リオデジャネイロ版など)は見送って…、といってもこの《ハ短調大ミサ》も未完であり、数種の版(シュミット版、ランドン版、エーダー版、バイヤー版、モーンダー版、レヴィン版など)が存在する。しかし、ソプラノ独唱部“エト・インカルナートゥス”を聴けば、そんなことはささいな問題。

【推薦盤】ヘルムート・リリング指揮 〈エーダー版〉
      シュトゥットガルト・バッハ=コレギウム
      シュトゥットガルト・ゲヒンガー・カントライ (1997年録音)[HÄNSSLER:CD98-145]
 独唱、合唱、オーケストラの三拍子が揃った演奏はなかなか見あたらず、決定盤はいまだないが、これは満足のいく演奏。意外なことに、クラウディオ・アバト、ベルリン・フィル、ベルリン放送合唱団の演奏(1990年録音)[SONY:SMK89793]が独唱(バーバラ・ボニー!)ともどもよい。

【裏推薦】シギスヴァルト・クイケン指揮
      ラ・プティット・バンド
      オランダ室内合唱団 (1985年録音)[DHM:BVCD5002]
 実はこれ、モーツァルト自身が後にアリアを追加して改作したオラトリオ《悔悟せるダヴィデ》K.469による演奏である。よって、歌詞はまったく別物。テノール独唱のハンス=ペーター・ブロホヴィッツが素晴らしい。ちなみにカップリングの《アヴェ・ヴェルム・コルプス》K.618は同曲最高の演奏。
 《ハ短調大ミサ》の映像では、ジョン・エリオット・ガーディナー指揮、イングリッシュ・バロック・ソロイスツ、モンテヴェルディ合唱団の没後200年命日ライヴが同者のスタジオ録音よりもよい(1991年:BBC、フィリップス製作)。特に、独唱のバーバラ・ボニー(ソプラノ)、アンネ=ゾフィ・フォン・オッター(メゾ)、アントニー・ロルフ・ジョンソン(テノール)が素晴らしい歌声を聴かせる。

■歌劇《ドン・ジョヴァンニ》 K.527
何度聴いても視ても、「恐ろしい喜劇」である。フェデリコ・フェリーニの映画《カサノバ》(1976年)とともに楽しみたい。実は、モーツァルトは伝説的好色漢ジャコモ・カサノヴァと《ドン・ジョヴァンニ》作曲の頃、プラハで会っている。

【推薦盤】ジャン=クロード・マルゴワール指揮
      ラ・グランド・エキュリ・エ・ラ・シャンブル・デュ・ロワ(王室大厩舎・王宮付楽団)
      (1996年録音)[ASTRÉE:E8635]
 このオーケストラ独特の土臭さが、《ドン・ジョヴァンニ》にぴったり。幕切れ“地獄堕ち”のきびきびした表現がかえって空恐ろしい。ウィーン版による演奏。


【裏推薦】ブルーノ・ワルター指揮
      メトロポリタン歌劇場管弦楽団 (1942年録音:ライヴ)[MEMORIES:HR4225]
 稀代のドン・ジョヴァンニ歌手エッツィオ・ピンツァに魅了されるが、何といってもワルターの指揮!彼はやはりオペラ指揮者である。後に量産されるスタジオ録音の比ではない。
 映像は多数あるが、ここは古くてもフルトヴェングラー指揮でチョーザレ・シエピがタイトルロールを歌った1954年ザルツブルグ音楽祭のもの(ロバート・マックスウェル製作、会場はフェルゼンライトシューレ!)とジョセフ・ロージー監督、ルッジェーロ・ライモンディ主演、オール・ロケのオペラ映画(1979年:フランス、ゴーモン製作)をお薦めしよう。


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  1. 2008/03/27(木) 14:36:58|
  2. 推薦盤

これからきくひと篇(1)

                これからきくひと篇(1)
 
これからモーツァルトを聴いてみよう、というひとのために、よく知られた曲から選択しました。もちろん既に聴いているよ、というひとでも是非【推薦盤】や【裏推薦】で聴き直してみてください。

■シンフォニー[第40番] ト短調 K.550
あまりにお馴染みゆえ、食傷しているむきも多かろうが、ひたすら聴き続け、主旋律以外の内声や管楽器にも耳が向かうようになると、決して飽きることがない“殿堂入りの曲”となる。第38番《プラハ》も薦めたかったが…。

【推薦盤】オイゲン・ヨッフム指揮 〈クラリネットなし版〉
      バンベルク交響楽団 (1982年録音)[ORFEO:C045901A]
 いわゆるモーツァルト指揮者としてヨッフムの名が挙がることはまずないが、晩年(80年代前半)に遺した一連のシンフォニー録音は、まさに驚異的。
 この演奏の妙は、なかなか筆舌に尽くしがたいが、第一には、立体的な各楽器の扱い、そのバランスの良さであろう。かなり大編成のオーケストラを用いているため、中低音部は当然重くなるはずであるが、それが何ともヌケの良い豊穣な響きを奏でており、決して管楽器をマスクすることはない。
 ヨッフムは、知る人ぞ知るモーツァルトの管楽器ロングトーンや内声に洞察を示しており、結果、たとえば(普段目立たないはずの)ファゴットやフルートがこんなにも雄弁に語る曲であったのか、と再認識させられることとなる。《ハフナー》《プラハ》も名演。

【裏推薦】ニコラウス・アーノンクール指揮 〈クラリネットあり版〉
      ヨーロッパ室内管弦楽団 (1991年録音:ライヴ)[TELDEC:9031-74858-2]
 ここではコンセルトヘボウ管との衝撃的なスタジオ録音(1982年:TELDEC)ではなく、没後200年記念ライヴをお薦めしよう。一夜に三大シンフォニーを演奏した当日の映像も残されており(ウィーン楽友協会大ホール、ユニテル製作)、《ジュピター》終楽章の何かが憑依した指揮ぶりは必見。
 クレメンティ四重奏団による四重奏曲編曲版(フルート、ヴァイオリン、チェロ、クラヴィア)〈M.クレメンティ編曲〉(1994年録音)[AGORA:AG003]は下手物ながら受容史としてはおもしろい。

■ディヴェルティメント[第15番] 変ロ長調 K.287
深刻、諧謔、憂愁が交差するモーツァルトのディヴェルティメント。その典型がこの第15番。特に第4楽章のアダージョは必聴。

【推薦盤】カール・ミュンヒンガー指揮
      シュトゥットガルト室内管弦楽団 (1984年録音)[INTERCORD:INT830-843]
 ホルン2、ヴァイオリン2、ヴィオラ、バスの室内楽編成で演奏されることも多いが、やはりこのアダージョはオーケストラで聴きたい。上品な演奏である。

【裏推薦】アルトゥーロ・トスカニーニ指揮
      NBC交響楽団 (1946年録音:ライヴ)[GUILD:GHCD2232-3]
 トスカニーニのモーツァルトはかなりレパートリーが偏っており、同じ曲を繰り返し演奏しているが(例えばハフナー・シンフォニーは5種の録音が遺る)、この曲もお気に入りだったようだ(RCAのスタジオ録音あり)。このライヴは11月3日のNBCラジオ公開録音の全編であり、CDには前日のリハーサルも収められている。「嬉遊曲」との訳語に不釣り合いな、何だかスゴイ演奏。

■ピアノ協奏曲[第23番] イ長調 K.488
傑作揃いのピアノ協奏曲から一曲選択するのは無理な話。20番台であれば個人的には最近22番や25番に惹かれるが、ここはまず簡潔で寸分の隙もない23番を。

【推薦盤】クリフォード・カーゾン(ピアノ)
      ラファエル・クーベリック指揮
      バイエルン放送交響楽団 (1975年録音:ライヴ)[AUDITE:audite95-466]
 録音嫌い、かつ録音しても発売嫌いのカーゾンであったが、死後発掘が続いている。最近もジョージ・セル指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団と共演した第23・27番の録音が国内初発売された(1964年録音)[DECCA:UCCD3429]。
 褒められることの多い、ベンジャミン・ブリテンやイシュトゥヴァン・ケルテスとのスタジオ録音(DECCA)にはあまり感心しないが、このライヴには震撼。クーベリックのサポートも文句なし。バイエルンの木管の素晴らしさ!

【裏推薦】スティーヴン・ルービン(フォルテ・ピアノ)
      ランサム・ウィルソン指揮
      モーツァルティアン・プレーヤーズ (1982年録音)[ARABESQUE:Z6530]
 1785年アントン・ワルター製作フォルテ・ピアノのコピーを使用。オーケストラも最小限(6.2.2.1)で、ほとんど室内楽。その分管楽器のウエイトが上がり、モーツァルト本来の管・弦のバランスが自然に取り戻されている。
 映像ではゾルタン・コチシュの演奏が興味深い。セミ・グランド(!)を即興性(前奏から通奏低音を入れている)をもった強烈な打鍵で弾ききっている(1990年:ドイツ・ユーロ・アーツ社製作“Mozart on tour”の一篇)。別の曲だが、第20番と第26番《戴冠式》とをフリードリッヒ・グルダが、ミュンヘン・フィルハーモー管弦楽団と弾き振りで共演した映像ライヴ(1986年:PHILIPS)は必見。
 また、この第3楽章ロンドの暗譜は意外に難しいらしい。アルトゥール・シュナーベルがアルトゥール・ロジンスキー指揮、ニューヨーク・フィルとおこなったライブ(1946年録音)[ASDISC:AS611]では、シュナーベルが突然間違ったパートを弾き始め、演奏が中断している。ハラハラさせられる盤だ。
 ちなみにこの協奏曲に対応するピアノ・ソナタは、調性は違うもののハ長調の第10番K.330であろう。まったく無駄音のない簡潔な第1楽章である。演奏は、グレン・グールドの旧録音(1958年録音)[SONY:0526262004](全集所収、1970年録音の超高速演奏の方ではない)や、最近発見されたフリードリヒ・グルダの自宅でのプライベート録音(1980年録音)[DG:00289-477-6130]がよい。

■クラリネット協奏曲 イ長調 K.622
管楽器の協奏曲からは、やはりこれだろう。死の直前に完成された晩年の傑作である。どの楽章にもカデンツァを置く余地すら残されていない。

【推薦盤】チャールズ・ナイディック(バセット・クラリネット)
      オルフェウス室内管弦楽団 (1987年録音)[DG:431-665-2]
 通常のA管クラリネットよりも長3度低い音域まで演奏可能なバセット・クラリネット(モーツァルトの友人でクラリネット奏者アントン・シュタードラー改良)による復元譜演奏。現行版よりも低音域独特の音色が存分に楽しめる。
 古楽器ではジャン=クロード・ヴァルハン(バセット・クラリネット)、ジャン=クロード・マルゴワール指揮、ラ・グランド・エキュリ・エ・ラ・シャンブル・デュ・ロワ(1989年録音)[K617:K617030]を薦めよう。

【裏推薦】ジル・トメ(バセット・ホルン)
      キアラ・バンキーニ指揮 アンサンブル415○古 (1999年録音)[ZIGZAG:ZZT990701]
 クラリネット協奏曲は、当初バセット・ホルン(古いクラリネットで、管の中間部分が90度屈曲)のために書き始められたようで、その草稿がト長調の断章K.621bである。これはその断片をもとに第1楽章を完成させたバセット・ホルン協奏曲の世界初録音である。
 ちなみに、最近テオドール・ロッツ作の特異な球根型先端部をもつバセット・クラリネットが当時のコンサート・プログラムの挿絵(1794)から復元され、エリック・ヘープリッチの演奏で聴けるようになった(復元製作もヘープリッチ自身)。
 協奏曲は、フランス・ブリュッヘン指揮、18世紀オーケストラ(2001年録音)[GLOSSA:GCD921107]。クラリネット五重奏曲K.581の方は、ミュージック・フロム・アストン・マグナの伴奏(1999年録音)[CENTAUR:CRC2561]。

■弦楽四重奏曲[第14番] ト長調 K.387
モーツァルトが、難産の末に送り出した6人の息子、とハイドンへの献辞で語る《ハイドン・セット》から一曲。その愛称ゆえに有名な《狩り》や《不協和音》よりも、個人的には第16番を好むが、ここでは長男をお薦めしよう。特に終楽章は全編フーガでソナタ形式というホモフォニーとポリフォニーとの奇蹟的融合である。

【推薦盤】スミソン弦楽四重奏団 (1994年録音)[VIRGIN:VC5-45029-2]
 スミソニアン博物館所蔵の名器による演奏。第1ヴァイオリンは、80年代にクリストファー・ホグウッドと古楽器による《シンフォニー全集》(L’OISEAU-LYRE)72曲の偉業を成し遂げたヤープ・シュレーダーである。

【裏推薦】バリリ弦楽四重奏団 (1953年録音)[WESTMINSTER:9031-73415-2]
 バリリ四重奏団が《ハイドン・セット》からは一曲しか録音を遺さなかったことは痛恨の極み。
 古楽器が重なるので筆頭には挙げなかったが、モザイク弦楽四重奏団(1990年録音)[ASTRÉE:E8746]も聴きたい。《プロシヤ王セット》3曲や第20番《ホフマイスター》は必聴である。
 映像ではゲヴァントハウス弦楽四重奏団(2005年:ドイツ、ザクセン州ラメナウ城、ユーロ・アーツ社製作)が必見。


テーマ:クラシック - ジャンル:音楽

  1. 2008/03/27(木) 14:16:32|
  2. 推薦盤

まずは…モーツァルト:この10曲とその推薦盤!

実は、これも某図書館からの依頼により生誕250年の折に企画したものです。本来の“まず盤ありき”という我が亭の趣旨には少々反するのですが、亭内充実の手始めに、改訂版として掲載いたしたく思います。ご寛恕くださいませ。

             モーツァルト:この10曲とその推薦盤

【口 上】
 35歳で夭逝しながらも800曲近い作品を生みだしたモーツァルト。「軽さが沈み、重さが浮かぶ」といわれる楽曲の数々は、常に絶妙なる転調とオーケストレーションとに支えられ、古典派における種々の制約(楽器編成や音楽家の地位)をもむしろ天恵とみなしたかのごとく、時代・地域を突き抜けた音楽となっているといえるでしょう。
 モーツァルトの全作品から何曲か選択するという行為は、従来幾人もが試みては徒労感を味わうかなり無謀の仕儀なのですが、ここは100曲や200曲を選ぶよりも、むしろ10曲の方が思い切りがつこうという荒技をもってそれを回避しようともくろんだもの。
 以下、無理を承知で【これからきくひと篇】と【ききこんでいるひと篇】との二篇に分けて10曲ずつ、つごう20曲を選んでみました。熟考するほどに悩みが増すので、思いついたままの選曲ですが、ご参考になれば幸いです。

【凡 例】
*モーツァルトはほぼ全てのジャンルにわたって作品を遺しているので、なるべく分野が偏らないように楽曲選択をおこないました。本来ならば、少なくともジャンルごとに10曲選びたいところです。

*その結果、ピアノ協奏曲やオペラ、弦楽四重奏曲のようにモーツァルトにあっては一曲も落とせない分野に関しても複数選択することを見送りました。また、残念ながら歌曲(《夕べの想い》K.523!)やセレナード、ピアノ・ソナタのように一曲も選択できなかった分野もあります。クラリネット五重奏曲や弦楽三重奏曲(K.563)、《魔笛》など神品の数々がないのもそのためです。

*[第○番]は、「旧モーツァルト全集」による通し番号で、現在使用しない方向に進んでいますが、一般にはまだ使用されているため便宜的に表記しました。

*ケッヒェル番号(K.-)は煩雑を避けるため、初版(1862)を記し、初版にないものについてのみ第6版(1964)の番号を付しました。

*モーツァルトの音楽は、演奏法や解釈に対してはかなり寛容ですが、演奏や演奏家にはきわめて厳しいので、初めての方はまず【推薦盤】で聴いてみてください。往々にして、メジャー・レーベルのスター的演奏家のモーツァルトに名演は少ないものです。

*【裏推薦】は、一般的な演奏ではないものの、曲の神髄に迫った名盤、参考になる楽曲、映像などがあるものについて挙げました。この欄で、10曲選択の不備を補ってもいます。

*架蔵の音盤約6.000枚の中から選択しました(今回は残念ながらLP・SP盤は除外)。


テーマ:クラシック - ジャンル:音楽

  1. 2008/03/27(木) 14:11:44|
  2. 推薦盤

プロフィール

KonLon

Author:KonLon
    戊子季春開亭

モーツァルト歴:
    (まだ?)30年
亭  訓:
   文質彬彬

*記事中の一人称「亭主」とは管理人のことです。

  詳しい亭主紹介はこちら

*上掲の画像…
プラハ郊外のベルトラムカ荘にて[2006.9.20]...一応階段中央に写っています...

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